クリスマスカード
インターネットを見ていて気づいたのだが,サンタクロースは英語を話すと決めてかかっている大人が日本にはたくさんいるようだ。私は長野県の田舎生まれなので,クリスマスとはほとんど縁がない生活を送って育ち,クリスマスというものがどういうものかがある程度わかったのは,留学でフィンランドに住んだ時である。そのとき以来,サンタクロースはフィンランドに住んでいると信じてきたので,「サンタクロース=英語」という図式に馴染めないでいる。
日本にクリスマスというものがどのように入ってきたのかを調べたわけではないので憶測に過ぎないが,サンタクロースと英語を結びつける習慣が日本にできたのは,第二次大戦後,北米の文物が大量に流入してきたことと関係があり,とくに学校での英語教育の影響が大きいのではないかと思う。たとえば,クリスマスの前になると Starbucks というコーヒー屋さんでは,ジングルベルが英語で流れている。この歌の歌詞は英語の教材になっていたような記憶がある。たとえば,ディケンズの「クリスマス・キャロル」を読むのも英語の勉強のためということになる。ハリウッド映画にもクリスマスが出てくる。そんなこんなで,子どもに送るサンタクロースのメッセージは英語で書くべきものと思いこんでいる親たちも多いらしい。いずれにしても,クリスマスは,日本では,キリスト教の習慣としてよりは,単なる英語圏の文化,とくにアメリカの習慣としてまねされているだけではないかという気さえする。
ロシアからサンタクロースの絵の「クリスマスカード」がメールで届いた。開封すると,いきなりチャイコフスキーのくるみ割り人形 Щелкунчик が流れたのでびっくりした。チャイコフスキーとクリスマスを結びつけて考えるのはむずかしい。絵では,サンタクロースのそりに子どもが乗り,クマのぬいぐるみとクリスマスツリーを運んでいるのが面白い。クマはモスクワオリンピックですっかりおなじみになったロシアのシンボルである。ロシア語で書いてある文句は,日本語に訳せば「幸運な新年と素敵なクリスマスを」で,新年のほうが左上に書いてあって,クリスマスの方は右下だ。
あれ,クリスマスカードにはふつう「楽しいクリスマスと幸運な新年を」と書くのに,どうして順番が逆なのだだろうと思った人がいるかもしれないが,ロシア正教では,カトリックやプロテスタントの祝う12月25日ではなくて,年明けの1月6日をキリストの誕生日として祝うから,新年のほうが先にくる。ロシアでは,日本と同じく,12月24日と25日は祝日でも何でもない。
それから,私の勘違いでなければ,キリスト教圏で「新年おめでとう」というときの「新しい年」は,年明け,つまり元旦のことだ。だから,英語の Happy New Year! は本来なら「良いお年を」と訳すべきではないかと思う。また,それと対比させて,大晦日のことを「古い年」と呼んだりする。このあたり,日本の年賀状が1年間の幸運を祈って送られるのと対照的だ。つまり,クリスマスカードでは「一年の始まりの日を楽しく迎えてね」と言っているだけなのに対して,年賀状では「幸福な一年になりますように」と言っているという違いがある。日本人は欲張りなのだ。英語で年賀状を書こうと生徒たちに言っている英語の先生方にあえて意見させていただけば,教える方の異文化理解をもう少し深めていただきたい気がする。
ロシアからのクリスマスカードをもう一度見ると,そりが空を飛んでいる。サンタクロースのそりが空を飛べるかどうかについては諸説あると思う。というよりは,空を飛ぶそりは,ディズニーのアニメあたりが起源ではないだろうか。フィンランドのサンタクロースはトナカイの曳くそりで移動するが,空を飛ばないイメージがある。ただし,もし空を飛ばないとすると,サンタクロースが一晩で世界中の子どもにプレゼントを届けるというイメージと矛盾してしまうのも確かである。空を飛べないそりの移動範囲は限られてしまうからだ。
キリスト教圏の国でも,クリスマスの習慣にはお国柄がある。最近の学校の英語教育は,英語を通じて英語圏以外の国々の文化を理解することに重点を置いているそうである。そのわりには,日本人のクリスマス観はいまだにワンパタンのままのような気がする。
ロシアのクリスマスカード
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