「北欧連邦」 - Förbundsstaten Norden
先週,アイスランドのレイキャビクで開かれた北欧理事会 Nordiska rådet / Pohjoismaiden neuvosto / Nordic Council の年次総会で,スウェーデンの歴史学者が,北欧連邦 Förbundsstaten Norden の構想について講演し,話題になっている。私はこの話を,イギリスの週刊誌 The Economist で読んで面白いと思っていたが,エストニア・テレビが取材した記事が昨日 (11/12) ネットに映像付で載り,ますます興味がわいてきてネット検索をしてみたところ,いろいろとヒットした。
記事: Love in a cold climate. Nordic countries revisit an old idea: union (The Economist Nov 6 2010)
記事: Rootsi ajalooline tutvustas raamatut liitriigi loomisest [スウェーデンの歴史学者が連邦構想に関する著書を披露] (エストニアTV 2010/11/12)
記事: Esitys: Suomi Tanskan kuningattaren alaisuuteen (YLE 2010/11/06)
記事: Ruotsissa ehdotetaan pohjoismaista liittovaltiota (YLE 2009/10/27)
北欧理事会の加盟国,すなわちフィンランドを含む北欧5カ国と自治領のグリーンランド,フェロー諸島,オーランド諸島 (フィンランド) が,デンマーク女王マルグレーテ2世 Margrethe II (在位 1972 -) のもとに連合国家を形成すれば,人口2500万の大経済圏となり,5カ国に分かれているより経済発展が格段に有利になるという広大な構想らしい。著者の Gunnar Wetterberg (1953年生) は,スウェーデン王立アカデミーの会員の,スウェーデンでは非常に有名な歴史学者で,この構想は,昨年秋に Dagens Nyheter 紙で意見記事として公表され,今年になって,北欧理事会からスウェーデン語で出版された。今のところ,この本が他の言語に翻訳される予定はないらしい。
Gunnar Wetterberg: Förbundsstaten Norden. (Nordiska Rådet, 2010)
年次総会に参加していた北欧諸国の首脳たちは,Wetterberg 氏の北欧連邦構想を冷ややかに聞いていたそうだが,現実性は別として,この構想が面白いのは,そのスケールが,かつての北欧で1世紀以上続いた連合国家,カルマル同盟 Kalmarunionen (Kalmarin unioni / Kalmar Union, 1397~1523) と領域的に重なることだ。この連合国家の同盟を結んだのは,当時のデンマーク,ノルウェー,スウェーデンの3国である。現在のアイスランドはデンマーク領,フィンランドはスウェーデン領で,当然ながら,両国ともまだ国家として成立していない。カルマル同盟は,スウェーデンが分離独立して崩壊するが,デンマークとノルウェーの二重王国は19世紀の初めまで続く。19世紀の初めには国境に大きな変化が起こる。スウェーデンは,フィンランドをロシアに割譲する一方で,デンマークから割譲されたノルウェーと連合国家を形成する。現在のような北欧5カ国が成立したのは20世紀になってからだ。
カルマル同盟との関連で面白いのは,カルマル同盟締結の中心的役割を果たしたのが,デンマークの女王・マルグレーテ1世 (在位 1387-1412) だったことで,彼女はデンマークの最初の女帝だったらしい。しかも,現在の国家元首マルグレーテ2世は,デンマークでは,マルグレーテ1世以来の二人目の女王だそうである。とにかくこれだけの条件が揃っているのだから,21世紀のカルマル同盟の旗頭にふさわしい人物はこの方以外には考えられない。
実現の可能性の有無はともかくとして,北欧全体が現在のような協力関係から,もっと一歩進んで,連合国家になった近未来の社会を想定するのは面白そうだ。フィンランドがソ連邦に併合されていたという想定で書かれた読み物をどこかで読んだ気がする (Helsingin Samonat の Kuukausiliite だったかもしれないが,記憶は不確か) が,望ましくない方向の想定だけでなく,逆の方向を想定しても面白い物語が書けそうな気がする。もっとも,フィンランド語系のフィンランド人の中には,スウェーデン語が共通語 (lingua franca) になった社会そのものを想像したくない人も多いだろうから,必ずしも望ましい方向とは思わないかもしれない。YLE のサイトの読者コメントを読むと,そういった声がちらほら見える。それに,まずスウェーデン国王の支配下にあり,ついでロシア皇帝を国家元首として仰いだ経験だけで,王室というものを自前で持ったことのないフィンランド人は,こういう話になるといつも仲間はずれになるから,不愉快な気持ちになったとしても不思議はない。
いずれにせよ,The Economist 誌は,北欧連邦がもし成立するとしても,1世紀か2世紀さきのことだろうと話を結んでいる。
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