カンテレとツィター
楽器も含め音楽のことはよく知らないが,フィンランドの楽器カンテレ kantele がツィター Zither (ドイツ語;英語では [zɪθɚ][zɪðɚ] と読むらしい) と呼ばれる弦楽器の仲間であるという話をどこかで読むか聞くかして,いつのまにか,なるほどそういうものかと納得していた。どちらも,日本の琴に似た楽器である。カンテレは「フィンランド琴」と呼べばもう少し日本でも知られるようになるのではないかと思う。余談だが,関西ではカンテレというと関西テレビ (フジテレビ系列) のことらしい。
日曜日の朝のテレビ番組 (東京ではテレビ朝日が放送) に「題名のない音楽会」という30分番組がある。今朝なんとなくテレビをつけたら,この番組をやっていた。今日 (10/24) のテーマは「珍楽器を救え!」。ツィターが話題だった。楽器の絶滅危惧種なのだそうだ。この楽器について,日本語 Wikipedia にはこう書いてある。
ツィターが意外と新しい楽器だということを知って驚いた。一方,日本語 Wikipedia のカンテレの項目にはこうある。
三角形の板に5本の弦を張った楽器であるカンテレは,学問上はツィターの仲間に分類されているが,ツィターの成立以前,2000年前にはすでに最古のカンテレが存在したという説もあれば,その歴史は1000年もないと主張する説もあり,今のところ定説はない。現存する5弦カンテレのうち,製造年が判別できる最古のものは,1698年に作られたものである(フィンランド国立博物館(National Museum of Finland)収蔵:Kurkkijoki村で採集)。
また,フィンランド語の Wikipedia を見るとこう書いてある。
カンテレの仲間 (フィンランドの kantele, エストニアの kannel, ラトビアの kokle [コウクレと読む], リトアニアの kanklės, ロシアの gusli / гусли など)に関するもっとも古い証拠になるものは,(ロシアの)ノブゴロドや,ポーランドの Opolen と Gdańsk グダンスクで発掘されている 900~1400 年代の考古学的出土品である。
どうみても,カンテレのほうが明らかにツィターよりも古そうに見える。ロシア語のгусли グスリに対応する単語と楽器は,ロシアのボルガ地方のウラル系・チュルク系民族 (マリ人,タタール人。チュワシ人,ウドムルト人など) も知っていて,それぞれの言語でロシア語とは少し違う語形の呼び名がある。16世紀にスイスで考案されたという楽器が伝わったとはとても思えない状況だ。
参考までに,ジャガイモが新大陸からヨーロッパにもたらされたのも16世紀らしいが,農作物としてロシアに伝わるのは18世紀で,この作物のロシア語名 картофель はドイツ語の Kartoffel と瓜二つだし,アクセントが第2音節に置かれるところまで同じである。農作物の伝播のしかたと楽器の伝播のしかたを比べるのは適切でないだろうが,日本へのジャガイモの到来の時期と西洋の楽器の到来の時期を比べて考えてみればわかるように,楽器のほうが伝わるのに時間がかかると考えられる。実際,西欧の古典音楽で使われる誰でも知っている一般的な楽器の場合,ウラル系の言語は独自の名前をもっていない。
「カンテレはツィターの仲間」と書くのは,形態的な分類の点では正しいかもしれないが,同じ先祖をもつ姉妹楽器であるとか,ツィターがカレリアに伝わったかのように,誤って受け取られる恐れがある。そういうふうに受け取られることがないような別の書き方に変えてほしいと思う。
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