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ガソリンと灯油 - bensiini ja petroli

 自動車の燃料に使われるガソリンは,フィンランド語で bensiini, 話し言葉では bensa と呼ぶというのは初級学習者でも知っている基礎知識である。

ガソリンは,原油を蒸留するときに一番最初に得られる油で,揮発性が最も高く,常温でふつうに気化する。ガソリンは,主にアメリカで使われる呼び名 gasoline から日本語に入ったことばだが,イギリスでは petrol と呼ぶのが普通といわれる。フィンランド語の bensiini は,染み抜きなどにつかうベンジン benzine と同じ語源であろう。フィンランド語では,ベンジンを puhdistettu bensiini 「純化されたガソリン」と呼ぶらしい。

 原油を蒸留するとき,ガソリンの次に得られるのが灯油である。灯油は,一般家庭の暖房用の,いわゆる石油ストーブで使われる油で,常温では気化しないため,ガソリンとは違って比較的安全な燃料油である。石油ストーブにガソリンを入れようとして爆発したというニュースを聞いたことがあるが,ガソリンと灯油を混同すると大変なことになるし,自動車の燃料タンクに灯油を入れてもエンジンはかからない。灯油は,英語では kerosene (アメリカ), paraffin (イギリス), 石油ストーブは a kerosene heater または a paraffin heater と呼ばれる。うるさいことをいえば,日本の石油ストーブは,本当は「灯油ストーブ」と呼ばれるべきものだということになる。

 まぎらわしいことに,フィンランドでは灯油のことを petroli と呼ぶ。たぶんこのことが影響したのだろうと思うが,Sofi Oksanen: Puhdistus (ソフィ・オクサネン「粛清」)の英語訳に誤訳がある。bensiini だけでなく,petroli も gasoline と訳されているのだ。最初フィンランド語原文で読んだあとで,英訳を参照してみて気づいた。bensiini のほうは,第1部の初めのあたり (s.12) にすでに出てきて,これは gasoline (p.6) と訳されている。

  petroli が出てくるのは,第4部の一番最後のページ (s.345; p.356),すなわち物語の一番最後で,主人公の Aliide が重大な決心をして petroli を手に入れようと思うシーンである。この箇所の原文では, petroolia と一方の綴りを間違えているが,これは愛嬌だ。燃え方を考えると,ガソリンは避けたほうがいいと思うが,これ以上理屈をこねるとネタバレになるので,控えておく。

 1980年代のはじめころだったと思うが,あるエストニア語の文を英訳したとき,gym と訳すべき võimla 「体操場,スポーツセンター」を power station と訳して,アメリカのエストニア人に大笑されたことがある。フィンランド語の voimala 「発電所」につられて間違ってしまったわけだが,灯油とガソリンの取り違えも,似たようなタイプの誤訳だろう。ただ,オクサネンの小説の場合,ガソリンと灯油の性質の違いが気にならない読者も多いだろうから,たいした誤訳ではないと言ってしまえばそれまでなのだが,気にし始めると,気になってしかたがない。

ガソリン  bensiini, bensa    cf. 英語 gasoline, perol
灯油    petroli        cf. 英語 kerosene, paraffin
ベンジン  puhdistettu bensiini  cf. 英語 benzine

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