「親日国」 フィンランド
「Yahoo! 知恵袋」というサイトがある。何か質問すると,みんなで答えを教え合い,いちばんいい回答をしたひとを選んで,ごほうびがもらえるというサービスである。そこに「親日国を教えてください!理由もお願いします!」という質問がのり,「ベストアンサー」が選ばれた。
その回答者は,フィンランドが「親日国」なのは,「日露戦争でロシア人を、やっつけたから」としています。そもそも「親日国」とはどういう国のことなのかもよくわからないが,今どき,日露戦争当時のような表現を使って平気な神経をもつ若い (?) 人がいることにまず驚いた。日露戦争と「親日国」フィンランドを結びつけるこの話,そもそもだれが言い出したのだろう? 居酒屋での冗談ならともかく,まともな現代の日本人がしらふでこんなこと言うかな。「東郷ビール」にまつわる神話と同じで,明治時代の亡霊がまだそのあたりをさまよっているような気がしてくる。日露戦争云々の話は,広い意味での「東郷ビール神話」のひとつとして分類しておこう。
フィンランドに関して,日本では,ほかにもいろいろな「神話」が語られる。
何十年も日本の学校教育に携わっているのに,日本の教育の問題点さえよくわからない人たちが,短期間フィンランドにいって学校を「視察」したくらいで,フィンランドの教育のすぐれた点がわかるはずがないと思うのだが,皆さんそろって,本を書けるくらいのフィンランドの教育の専門家になって帰国する。これは「教育神話」と呼ぼう。
フィンランド語はアジア系の言語だから,フィンランドの文化やフィンランド人のものの考え方には,日本や日本人のそれに通じるところがある,たとえば,シベリウスの音楽に共感する日本人が多いのはそのためだという人がいる。しかし,シベリウスがフィンランド語をたいしてできなかったというのは,有名な話だ。ふだんフィンランド語でものを考えていない人が「フィンランド的なものの考え方をしていない」と言い切るつもりはないが,いずれにしても,このようなシベリウス音楽の鑑賞法はこじつけに近いのではないか。これは「フィンランド人アジア系神話」と呼びたい。
他愛ないものとしては,「ムーミンは妖精だ」「ムーミンは森のトントだ」「ムーミンはフィンランド語を話す」など。まあ,たしかにDVDではフィンランド語を話すムーミンが出てくるけれど,あれはいわば「吹き替え」なんだと話すと,みな一様にびっくりするが,ほとんど信じている様子はない。昔,ハリウッド映画に出るアメリカの俳優たちも日本語を話すんだと思っていた日本人がいたとかいないとか聞くが,そのレベルののどかな話である。まあ,どっちの言語も知らない99.99%の日本人にとって,スウェーデン語だろうがフィンランド語だろうが大差ないのは認めざるをえない。
ムーミンに関する誤解にみちた「神話」は,比較的無害なので,気にしないことにしているが,日露戦争の歴史的解釈や,日本の教育問題に関する「フィンランド神話」は,神風が吹いて,一気に吹き飛ばしてくれないかなあと,切に願う毎日である。
ところで,「親日国」であるとされなかった国は,どういうことばで呼ばれるのかな。
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コメント
まぁ、まず日本人特有の病と言うべきか、自虐的歴史観を少し正す方向に持って行かなければ、いつまでもこの手の『親日国探しとその神話』は消えないのでは?
国歌も学校で歌うな、日本は昔戦争に負けた悪の帝国だったから日本人は世界中で嫌われている、等とマスコミと教育現場一体となった戦後教育の圧迫を受けていたら、たまに日本人に好意的な国や民族がいると聞いたら砂漠にオアシスを見つけたような感覚で喜んでしまう人達だっているでしょう。
それこそ“神風”が吹くのを待ちわびる思いで(笑)。
投稿: | 2010年4月 9日 (金) 10時14分
ところで,フィンランド人と日本人がよく似ているところがあると言われてます。それは,他国の人が自分たちをどうみているかを気にしすぎることだとされます。その意味では,フィンランドは親日国かもしれませんね。
投稿: ブログの主 | 2010年4月 9日 (金) 11時05分