« ハウスカ - hauska | トップページ | フィンランド語で中国のことを知ろう »

フィンランド語・フィンランド語文学・フィンランド文学

 「XX国の文学」を「XX語の文学」と置き換えても,ほとんど問題がないと思われる場合がある。たとえば,ドイツ文学や日本文学がそれである。これは,英語の文学が,イギリス,合衆国,オーストラリア,南アフリカ等々の文学を含んでしまうのと対照的である。

 フィンランドの文学について語るときは,これとは別の問題がある。フィンランド語のほかに,フィンランド・スウェーデン語の文学も含めて考える必要があるからである。たとえば,トーベ・ヤンソンはスウェーデン語の作家で,「ムーミン」の原作はスウェーデン語で書かれており,フィンランド文学といっても,フィンランド語系のフィンランド人の子どもはフィンランド語訳のムーミンを読んでいる。参考までに「フィンランド文学」については,簡単な概説が出ている。[ カイ・ライティネン『図説 フィンランドの文学』大修館書店 1993 ] なお最近は移民が増えて,他の言語で書かれたフィンランド文学も考慮する必要が出始めているが,問題が複雑になるので,今はとりあえずこの2つの言語だけに話を限定する。

 同様の問題は,原語のフィンランド語 suomalainen やスウェーデン語 finsk にもある。有名な「フィンランド文学協会」(SKS - Suomalaisen Kirjallisuuden Seura / Finska Litteratursällskapet) は「フィンランド文学協会」と訳すのが本当は正しい。1835年当時の設立の経緯から見ても明らかだが,信じたくない人には,同じ建物の別の側のドアから「フィンランド・スウェーデン(語)文学協会」(Svenska Litteratursällskapet i Finland) を訪ねてみることをお奨めする。このあいまいさは,英語の Finnish やロシア語の финский などなどにもついてまわる問題である。

 「フィンランド文学」と「フィンランド語文学」というときで「フィンランド」の意味が違うのは不便だから,「フィンランド語」のかわりに「スオミ語」ないし「フィン語」を使おうではないか,と考える人もあるだろう。一理あるが,すでに「フィンランド語」がおおかた定着しているところに別の言い方を持ち込むのは,かえって事態の混乱を深めるだけ(「フィンランド語とフィン語は違うんですか」とうい質問を受けたことがある)で,まったく解決にはならないと私は思う。とくに,「スウェーデンのフィンランド語」「ロシアのフィンランド語」という言い方には違和感を覚える人が多いとは思うが,国名をそのまま言語名に使う習慣のある日本語では,我慢して「フィンランド語」を使い続けるのが最も現実的な選択肢のように思われる。

 日本語訳の観点からみたとき,もうひとつやっかいなのは,suomi / finsk 等々が,現在のわれわれが理解している「フィンランド語」だけでなく,カレリア語やエストニア語などを含む「バルト・フィン諸語」の意味で使われていることがあることだ。これは,現在のように標準語としてのフィンランド語が確立する以前からの用法で,おおむね言語学の専門用語の中に残っているにすぎず,一般には問題を起こさないだろうと思われるが,この場合には,私は,言語学の専門用語という注釈付きで「フィン語「フィン系の」と言うことにしている。英語の言語学用語としては Finnic を使って区別する(Finnish language - Finnic languages)のが現在は一般化しているが,ロシア語(прибалтийско-финский, угро-финский)やドイツ語(Ostseefinnisch, finnisch-ugrisch)では区別がない。

 ところで,suomi / finsk / Finnisch / финский 等をこのような「緩い意味」で使うのは,19世紀まではごくふつうの用法だったということを知っておいた方がいい。フィンランド・エストニア・ロシアに囲まれたバルト海の東の部分を「フィンランド湾」(Suomenlahti / Finska viken / Финский залив)と呼ぶが,これは現在ではフィンランドという国と結びつけて理解してしまうけれども,もともとは,ヨーロッパやロシアから見たときに「フィン系の(言語を話す)人々」が住む地域にあるからついた名前だろうと考えられる。

|

« ハウスカ - hauska | トップページ | フィンランド語で中国のことを知ろう »

旅行・地域」カテゴリの記事

言語」カテゴリの記事

歴史」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: フィンランド語・フィンランド語文学・フィンランド文学:

« ハウスカ - hauska | トップページ | フィンランド語で中国のことを知ろう »