ハープサルの野外市場 - Haapsalu turg
ヨーロッパのたいていの街にある野外市場 turg だが,ハープサルの場合,Raudteejaam 鉄道駅 (現在は博物館) の近くにある。
入り口の掲示を見ると,月曜日以外の毎日,朝7時から午後3時まで開いていることになっているが,ほとんどの商店主はお昼前に店じまいしてしまうようだ。私が行ったのも12時頃だったので,店を開いている人はほとんどいないだけでなく,買い手はもっと少なかった。
買おうと思ったのはベリー類で,値段はどっちも同じような気がするが,同じ買うなら,棚から自分でとってレジに持っていくだけのスーパーより,売り手とやりとりのある市場で買うほうが絶対に楽しい。ベリー類を売っている店をひと通り見て回ったが,karusmari という,私が子どもの頃の田舎で「すぐり」と呼んでいた実とよく似ていて,スイカをビー玉より少し小さくして,半透明にしたような感じの薄い緑色の実を売っているおばあさんの店に決めた。その日の朝,裏山で採ったのを洗いもせずにそのまま市場に持って来るらしく,店といっても,2~3種類の商品が並んでいるだけだ。
辞書で「すぐり」をひくと,
ゆきのした科の落葉低木の総称。特に,長野県の山地に自生する,その一種。葉のつけ根にとげがあり,実は熟すと赤くなり,甘ずっぱい。[岩波国語辞典第六版]
とあるが,私はその長野県の山地の生まれである (長野県はほとんどが山地である)。
エストニアの karusmari は,私の知っている長野県のすぐりと外見はそっくりだが,皮を噛み砕かないかぎり酸っぱくならない代わりに,甘みはほとんどない野性的な味である。辞書をひくと,英語では gooseberry と呼ぶらしい。なお,gooseberry を英和辞典を引くと「セイヨウスグリ」などとあるから,長野県のすぐりとは比較的近い仲間であることは間違いなさそうだ。
このセイヨウスグリを売っていた写真のような可愛いおばあさんに,この実はどんな味かとか,名前は何かとかいうような質問をしているうちに,向こうはお金を取るのを忘れてしまい,私もお金を払うのを忘れてしまった。karusmari をビニール袋 (あとでよく見ると,スーパーで売っている Fazer の黒パンの袋だった) に入れてもらって受け取った私は,そのまま立ち去ってしまったのだ。
私はそのまましばらく,ほとんど誰もいない市場の中を探索していた。すると,そこに,さっきのおばあさんがいそいそとやってくるではないか。話を聞いて,支払っていなかったことがわかって,私はとても決まりの悪い状況に置かれた。たとえ 1.50€ (150円)とはいえ,私は買い逃げをしようとしたのと同じなわけで,おばあさんは必死である。私は対応にとまどい,とっさに,小銭入れにあった2€硬貨を出して渡し,お釣りの50¢は払わずに来てしまったことへのお詫びだからいらないと言ってすまそうとした。しかし,おばあさんは「自分のほうも請求し忘れたのだから,それはおかしい。お釣りの 50¢は受け取ってほしい」と言う。一緒に,お店に戻って,もう一度同じような理屈を述べて,最終的に納得してもらい,折り合いがついて,お互い笑いあって,めでたしめでたしである。あとは,写真を取らせてもらえるほど,打ち解けた。
私は,代金を払ったあと,品物も釣りも受け取らないまま立ち去ろうとして,店員から呼び止められ,気づいて,商品を受け取りに戻ったという逆の経験が,若い頃から何度もある。言い訳になるが,今回の買い逃げ未遂も,決して悪気があって行った行為ではない。注意散漫なだけである。2€からの50¢のお釣りを受け取る,受け取らないで生真面目にやりとりする私は,どうやら,このエストニアの田舎町のおばあさんに負けないくらいの田舎者のままで今日まで生きてきてしまったようで,エストニアの田舎で落ち着けるのはそのせいかもしれない。
ネットに掲載するための許可はとっていないが,まさか私の支払った大金50¢の
ために命を狙われることはないだろうと信じる
エストニアのスグリ karusmari (karus は「毛の生えた」という意味)
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