ハープサル城の幽霊 - Haapsalu Piiskopilinnus ja Valge Daam
ハープサルは城下町だと書いたけれど,お城は世俗の領主の居城ではないから,むしろ門前町に近いかもしれない。
ハープサルに城ができたのは13世紀の中頃。当時,サーレマーやパルヌを含む現在の西エストニアは,1つの司教区 (piiskopkond, 英語 diocese) になっていた。この司教区の宗教的,政治的中心がハープサル城におかれていたから,城には Toomkirik と呼ばれる大聖堂があると同時に,僧兵と武器庫を備えた要塞でもあったらしい。
この司教区の勢力は約300年続くが,16世紀の半ばにデンマークの国王の配下に置かれ,解体されてデンマークに併合された。その直後に,この地はスウェーデンに占領される。ハープサル城の運命はというと,1688年に大火にあって消失,その後は,大聖堂の部分だけが再建されて今日に至っている。焼け残ったけれど再建されなかった部分は,最近になって,かなり荒っぽい工法で改修補強されて,博物館となっている。
これだけ古いお城だから,伝説が残っていて当然で,いちばん有名な話が,大聖堂の西側に張り出して作られた丸い壁の礼拝堂の窓に,毎年8月の満月の夜に現れるという白い女性の幽霊 Valge Daam の怪談話である。今年(2012)は,満月が月の上旬だったが,城の博物館入り口の土産物入場券売り場の女性に聞いた話では,今年,実際に幽霊を見たといっている人がいるそうだ。言い伝えを要約するとこうだ。
キリスト教圏で「成仏」はおかしいが,ほかの動詞を思いつかない。考え方はそっくり同じだから大目に見てほしい。
この Valge Daam 白い幽霊女性 だが,実は,光の現象として物理学的に説明されているらしい。1つの窓から入った月の光が礼拝堂内の壁に当たる。そのとき壁は白く輝くが,それを別の窓の外側から見ると,白い幽霊がその窓に現れたかのように見えるのだそうだ。この現象が起きるのにちょうどよい角度で月が空に上るのが,8月の満月のときらしい。なんだか,探偵ガリレオシリーズに出てきそうな話だが,白い影は幻ではなく現実のものだから「幽霊」を見たという人がいたとしても,まんざら嘘を言っているわけではないことになる。
この現象の科学的な説明が書いてあった表示板には,この白衣の幽霊女性が見えるのは,偶然なのか,それとも設計者によって意図されたものなのかを判断する決め手はないと書かれていた。後者の場合,設計者の周到ないたずらだったとしたら面白い。あの世で,してやったわいと,ほくそ笑んでいるかもしれない。
ハープサルで私が泊まったホテルは,日本の温泉の宿屋のごとく,それぞれの部屋に名前がついていて,私の部屋はなんと Valge Daami tuba 白い幽霊女性の部屋だった。部屋の壁には,その幽霊が窓に現れている礼拝堂を描いた絵と,女性の姿を織り込んだ白いタピストリーがかっていたほか,天井に近い窓にも白い人影が描かれていた。ただし,女性の幽霊は,残念ながら夜一度も忍んで来なかった。
白い女性の幽霊が現れる窓
満月の光が入る窓
博物館の展示写真。エストニアの幽霊にも足がないことが確認できる。
部屋のドア
窓(夜)
窓(昼)
Aken, kuhu ilmb augustis täiskuu ajal Valge Daam
8月の満月の夜に白い女性の幽霊が現れる窓の絵
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