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エストニアの愛唱歌「母の心」 - Ema süda

 ソフィ・オクサネンの「粛清」の中で,ウラジオストクに住んでいた頃のザーラが,初めてエストニア語と出会う場面に歌が登場する。

ザラがそれをはじめて聞いたのは,夜中に窓際にぽつんと座ってつぶやいていた祖母の言葉だった。母を起こして,おばあちゃんがおかしいと小声で知らせた。[...] 母は奇妙な響きの言葉で話し,祖母は奇妙な言葉で答えた。床に,大きく口をあけたスーツケースが置いてあった。[...] 母はスーツケースを片づけて納戸にしまってから,祖母の額に手を置いた。そのあと二人は暗い中で座ったまま,じっと目を見ひらいていた。

 あくる日,母に,祖母は何語で何と行ったのか訊いてみた。母は,紅茶とパンをのんびり味わうふりをして,質問を無視しようとしたけれど,ザラは引かなかった。すると母は,おばあさんが話していたのはエストニア語。あるエストニアの歌の歌詞を繰り返していた。おばあさんももう年だから少しぼけたかな,と言った。それでも母は,その歌の題名は『エマスダ』だと教えてくれた。それを頭に刻みつけておき,母がいないときをみはからって,祖母のもとへ行き,題名を口にした。祖母がザラを見た。まともにザラを見たのは,この時がはじめてだった。 (日本語訳 pp.50~.51; ただし青色部分は松村訳で置き換えた)

 英訳にも Emasüda となっているだけだから,日本語訳者が「エマスダ」と音訳したのは無理もないが,この題名は「母の心」と言う意味だ。ちなみに,フィンランド語原書では,エストニア語やロシア語の箇所には注がついていて,この歌の題名の意味が巻末の注に書いてある。英訳者は,小説に注を付けるのは不自然だからと省いてしまったのかもしれないが,ここだけは解説がほしいところだ。

 関連ページ:
  ソフィ・オクサネン「粛清」 - Sofi Oksanen: Puhdistus (2010/10/15)
  ソフィ・オクサネン「粛清」の電子版 (2011/01/24)
  ラジオドラマ「粛清」 - Raadioteater: Sofi Oksanen "Puhastus" (2011/08/13)
  ソフィ・オクサネン「粛清」の日本語訳 (2012/02/26)

 この歌の歌詞は,エストニアの最初の女流詩人Lydia Koidula リーティア・コイトラの詩で,エストニア語の歌の歌詞のサイトに載っている。解説によると,曲は,R. Th. Hansen (1849-1912) という学校の先生(作曲や合唱の指揮もした) が,1882年につけたものだそうだから,日本風に言えば文部省唱歌みたいな歌だ。

 「母の心」の歌詞: Ema süda (laulud.ee - Eestikeelsed laulusõnad)

 どのように歌うのがスタンダードなのかは不勉強で知らないが,YouTube で検索すれば,無料で聞くことができる。たとえば

 Ema Süda (YouTube)

 iPod などで聞きたい人は mp3 でダウンロードできる。どちらも歌っているのは Siir Sisask (写真)で,バックに男声合唱がついている。

 ダウンロード1: Ema süda (Muusika24) ─ ダウンロード2: Ema süda (LegalSounds)

 前者はエストニアのサイトで,この曲はバラ売り (0.85€) になっている。後者はアメリカのサイトで,この曲 (9¢)だけでも, Laulud Hingest (こころの歌)というアルバム(17曲 ─ $1.53)で他の曲と一緒にも買える。

Siiri Sisask

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コメント

始めまして。 私はエストニア語は、まったく分かりません。 
以前、YouTube でエストニアの歌手 Birgit Oigemeel という人が歌う  ' Laul Pohjamaast ' という歌を聴きました。
とても良い歌だったので書き留めておいたのですが、曲名も歌詞の意味も見当がつきません。
もし宜しければ、いつかこの歌の日本語訳の題名と歌詞を載せて、このブログで紹介していただけますか?
どうぞ宜しくお願いします。

追記:あなたはエストニア語やフィンランド語も理解するようですが、もしかしたらロシアの事情にもお詳しいのでしょうか?

実はYouTube で1970年頃に、日本で大ヒットしたフランス人歌手・ダニエル・ビダル(Daniele Vidal) が歌う ’天使の落書き’ ( Aime Ceux Qui T'aiment ) のフランス語版を聴いていたら、ロシアの方からの書き込みがありました。
その書き込みによると、 ’天使の落書き’(Aime Ceux Qui T'aiment ) の原曲は、ロシアの Edita Pieha という歌手が歌う ' Party People ' ( Nash Sosed ) だそうです。

私は’天使の落書き’は、てっきりフランスのポップソングだと思っていました。 当時、メロディーも日本語訳の歌詞も大好きでとても心に響くものがありました。 
注記: ’天使の落書き’の日本語版は全く違う歌詞でフランス語版に比べて心に残るものがありません。

注意して書き込みを読んでいると、ハンガリーの方からも書き込みがあり、Mary Zsuze の 'A Trombitas ' を聴いてくださいとありました。
両方を聴いて思ったことは、どちらもチャラチャラしたパーティーの歌のような曲調でした。

’天使の落書き’のフランス語版では、たしか ”ウクライナの村のどこかに門があり・・・・・・” という歌詞があったように記憶しています。
ということは、ロシア人歌手 Edita Pieha の歌った ' Paty People (Nash Sosed) ' という歌が、ハンガリーやフランスにも拡がって、曲にアレンジを加え、新しい歌詞に書き改めて Daniele Vidal が ' Aime Ceux Qui T'aiment ' としてフランス語で歌い、日本で ’天使の落書き’ として大ヒットしたということなのでしょうか?

語学に弱く、旧ソビエトの事情にも疎い私には、お手上げです。
もしあなた様が旧ソビエト事情にも詳しいのでしたら、この件についても宜しくお願い申し上げます。

投稿: お尋ねします | 2012/11/24 00:11

Laul Põhjamaast は1980年代の終わりによく歌われました。エストニアのいわゆる「歌う革命」の「革命歌」のひとつで、ここに歌詞の紹介があります。

http://homepage2.nifty.com/kmatsum/laulud/Laul_pohjamaast.html

「天使の落書き」なる歌については、不勉強で、あるいは、メロディーを聴けば、ああ、あの歌かと思い出すかもしれませんが、タイトルだけでは何もわかりません。そういえば、日本では「悲しき天使」というタイトルで、1970年代(?)に流行った歌も、原曲はロシア語ですよね。私の iPod には、この歌が、ロシア語、英語、日本語の3つのバージョンではいってます。

投稿: ブログの主 | 2012/11/24 06:49

エストニアの歌・Laul Pohjamaast とは、’北の国’ という意味で、ソビエト支配下の時代の革命歌だったんですね! 知りませんでした。
とても綺麗なメロディーの歌だと思います。

Laul Pohjamaast (北の国)

北の国 私の生まれた国
風が吹き 嵐の晩のような国
厳しい国 強い国
オーロラの国 

北の国 私の生まれた国
太古からあるモミの森の国
波の国 海岸の国
私はおまえから離れない


雪に埋もれた森の農場
静かな冬 冬の道
おまえのやさしいそりの鈴の音が
雪の上で歌っている


言われてみると、確かに北の国の厳しい自然と、ソビエト支配下のエストニア人たちの厳しい環境を重ね合わせたような歌詞ですね。
そして北の国の厳しい自然を愛し、そこで生活するエストニア人の心意気を感じさせる歌ですね。

この翻訳はあなた様がしたのでしょうか? とっても素晴らしい翻訳ですね!
この歌の歌詞の意味が分かってとても嬉しいです。


それと、大阪万国博(1970年)前に、イギリスのメリー・ホプキンが歌った’悲しき天使’(Those Were the Days、1968年) が大ヒットしましたね。
おっしゃるとおり、この歌も原曲がロシアですね。 ロシアでは’長い道’というタイトルで歌われているそうです。
メロディーは、東欧系ユダヤ人のアシュケナジムの民謡・クレズマー(Klezmer)風とか、ジプシー音楽を取り入れているとか言われているそうです。

こうしてみると私達が聴いている西ヨーロッパや北米の曲も、ロシアが原曲というものが沢山あるんですね!
タタールや東欧系ユダヤ人、ジプシーなどの影響を受けた、哀愁に満ちたロシアのメロディーは、我々アジア人にも共通する感性があるということでしょうか・・・・。

興味深いお話をありがとうございました。

投稿: お尋ねします | 2012/11/24 23:00

追記: エストニアの歌手、Ott Lepland が歌う ' Kuula ' という歌も、とってもいい歌ですね。
    時間がありましたら、この歌の日本語訳も宜しくお願いします。

投稿: お尋ねします | 2012/11/25 00:05

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