ロシア語に翻訳する - vene keelde tõlkima
エストニアでは,エストニア語が公用語で,ロシア語は外国語と規定されている。このことの是非はともかく,これが現実の場面で何を意味するかを端的にわからせてくれる訴訟があった。
記事: Mees läks eestikeelse politseiotsuse pärast kohtusse (Postimees 2011/10/21)
ロシア語系の住民が,「警察の決定がエストニア語なのでわからないから,ロシア語に訳してほしい,ロシア語への翻訳を拒否するののは,ロシア語系住民に対する差別であり,権利の侵害である」という訴えを起こした。
裁判所は,国の機関にはエストニア語の通知をロシア語に翻訳することを義務付けた法律はないから,警察が決定をロシア語に訳さなかったとしても法律上何ら問題がない,として訴えを退けた。結果は最初からわかっていたと言っていい。翻訳が必要なら当事者本人が自分で手配し,費用も自分で負担するというのが法律上の規定である。つまり,ロシア語は,この点だけをとれば,日本語と同じ扱いである。エストニアで警察の世話になることになった日本人がどんなに泣きわめいても,エストニアの警察には日本語の通訳も翻訳もつける義務はないから,エストニア語ができない日本人は,自前で通訳なり翻訳者を雇うしかない。
フランス語が公用語のカナダのケベックでは,この逆があるそうだ。警察が交通違反の罰金を請求した際,フランス語で書類を書かなかったのは,フランス語系の住民の権利の侵害であるとして,罰金の支払いを拒否する訴えを起こして勝訴できるらしい。
日本で英語を公用語にしようなどと言っていた政治家たちは,こういったことをまったく知らないと思われる。もし英語が公用語なら,東京電力は,日本語を十分理解しない福島県民から,原発被害の賠償手続きの書類を書くための英語のマニュアルを請求された場合,160ページもある分厚い文書を大急ぎで英語に訳さなければならない義務が生じることになる。英語の公用語化などということばは,軽々しく口にしないほうがいいのである (笑)
エストニア語の eestikeelne
訴訟を起こす kohtusse minema
差し戻す tagastama
苦情,異議申立て kaebus
義務付ける kohustama
ロシア語に訳す vene keelde tõlkima
拒否する keelduma
権利 õigus
侵害する rikkuma
憲法 põhiseadus
自費で omal kulul
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