エストニア人と宗教 - maausk
エストニアはキリスト教国でルーテル派プロテスタントが主要な宗教だというイメージが根強いが,現実は必ずしもそうとはいえない。
記事: Lugejaile tundub sümpaatseim maausk (Postimees 2011/07/21)
関連ページ: ルーテル教会の統合 - kirikud ühinevad (2010/11/15)
関連ページ: ルーテル教会と正教会 - luteri usk ja õigeusk (2010/11/17)
確かに,ソ連併合前の1930年代には,エストニア人の8割がルーテル教会に帰属していたが,現在では,エストニア国内のルーテル教会信徒は18万人程度で,エストニアで最も信徒の多い宗教はロシア正教会 (20万人) となっている。ただし,プロテスタントの様々な慣習はルーテル教会に属していないエストニア人の間でも受け継がれているので,社会全体としてみたときのプロテスタントの国というイメージは,間違っているとは言えない。また,ロシア正教会はロシア語の教会なので,信者はほぼロシア語系の住民に限られる。
日刊紙 Postimees が行なった「もっとも親しみを感じる宗教は何か」という読者アンケート(2936人が回答)で,面白い結果が出ている。
maausk 45.6%
ルーテル教会 22.6%
仏教 13.4%
正教会 4.7%
カトリック教会 2.9%
イスラム教 2.2%
ヒンズー教 0.6%
その他 8.1%
仏教の人気が意外に高いのが面白いが,もっとも人気の高い maauks というのは,森の中の特定の場所を聖なる地と定めて,神道のお祓いのような儀式を行う自然信仰のようなものらしい。キリスト教会のように整然とした組織があるわけではないし,確固とした聖典もないから詳しいことはよくわからない。このタイプの素朴な自然信仰は,ロシアのボルガ・ウラル地方のウラル系民族マリ人の間にも受け継がれている (私は現地で実際に儀式を見せてもらったことがある) ことが知られているが,ヨーロッパでは珍しいのではないだろうか。
なお,maausk という呼び方は,かつて19世紀に,エストニア語を maakeel くにことば,エストニア人を maarahvas くにたみ と呼んだのに倣った命名法ではないかと思われる。当時の支配層のドイツ人がよそ者だったのと同じく,ドイツ人がもたらしたキリスト教もよそから入ってきた信仰であると捉えれば,それに対立する概念としての「土着の信仰」という考えかたがあるのは至極当然だろう。
共感を覚える sümpaatne
土着の信仰 maausk
くに,土地 maa
信仰,宗教 usk
ルーテル教会 luterlus
仏教 budism
正教会 õigeusk
カトリック教会 katoliiklus
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コメント
作曲家アルヴォ・ペルト(1935年生まれ)は正教会に改宗したとされ、関連作品もあります。ただ、この名前はロシア系ではないはずですが、こうした例もあったのでしょうか。このあたりの歴史に詳しい方が居られたらご教示ください。
投稿: Maulwurf | 2015/05/08 00:54
エストニア人の中には、少数派ですが正教徒もいます。Arvo Pärt の信仰のことは知りません。
投稿: ブログの主 | 2015/05/08 01:05