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天皇陛下 - Tema Majesteet Jaapani Keiser

 エストニア語では,日本の天皇のことを Jaapani Keiser と keiser 皇帝 という言葉を使って呼んでいる。皇室,王室に関する言葉づかいに独特なものがあるのは日本語だけではない。一般人はふだんは使わないから,日本語でさえ,いざとなると言葉に詰まってしまうが,それを外国語で言うのは,さらに1000倍難しい。たとえば「陛下」をエストニア語で言い表すには何と言えばいいのだろうか。

 エストニア語の表現がよくわからない一つの理由は,エストニアには王室や皇室があったことがなく,エストニア語でそういう言い方が必要でなかったから,特別な語法が発達しなかったせいだろうと思われる。エストニアはかつてロシア帝国に属していたが,ロシア皇帝はエストニア人にとっては遠い外国の人だったから,陛下という言葉もロシア語やドイツ語を話すごく一部のエストニア人たちがお付き合いで使うだけで,エストニア語で生活していた一般の人々には縁のない言葉だったとしても不思議はない。

 ふつうのエストニア人が一生に一度使うか使わないかという「陛下」にあたることばだが,では,エストニア語で何と言えばいいのか.。詳しく調べたわけではないのだが,実は意外と簡単なことのようで,ヨーロッパの言語でほとんど統一されている言い方を,エストニア語に直訳するだけですむらしい。

 Tema Majesteet Keiser (天皇陛下)
 Tema Majesteet Keisrinna (皇后陛下)
 Nende Majesteedid Keiser ja Keisrinna (天皇皇后両陛下)

すぐ分かるように,代名詞の性の区別がなく,定冠詞がないだけで,いずれも英語の言い方の直訳である。他のヨーロッパ語でも基本は同じである。

 His Majesty the Emperor
 Her Majesty the Empress
 Their Majesties the Emperor and Empress

 属格 (所有格) はどうなるかというと,英語は最後に 's を付けるだけですむが,エストニア語はやや面倒くさくて,

Tema Majesteedi Keisri
Tema Majesteedi Keisrinna
Nende Majesteedide Keisri ja Keisrinna

となると思われる。Majesteet も属格になるので注意。ただ,いつもいつも,こういう言い方をしていたのではしんどくてたまらない。ふだんは,

Keiser - Keisri - Keisrit
Keisrinna - Keisrinna - Keisrinnat
Keiser ja Keisrinna - Keisri ja Keisrinna - Keisrit ja Keisrinnat

と言えばまったく問題がないはずである。

 いい忘れたが,keiser はドイツ語の Kaiser カイザーがエストニア語に入ったもので,ドイツ語はローマ帝国の有名な皇帝の名 Caesar カエサル,俗にいうシーザーが起源である。ロシアの皇帝は царь ツァーリと呼ぶが,これも Caesar が起源らしい。英語では,Czar Nicholas II 皇帝ニコライ二世 のように,ロシア皇帝はふつう Czar (発音注意 [zar]) である。一方,エストニア語では,ロシア皇帝も keiser と呼ばれる。

【補足】 産経新聞のサイトがわけのわからないことを書いている。天皇,皇后に「陛下」を付けないのは「呼び捨て」であり,「皇室軽視」の現れだとして,文部省検定を通過した教科書まで槍玉に上げているのである。

 「文化勲章を授与する天皇」「インドの首相をむかえた天皇」がなぜ呼び捨てになってまずいのか私にはわからない。この場合の天皇は,首相,社長,校長などと同じ称号であって,新聞が「首相閣下」「校長様」などと書かないのと同じである。「一般国民や外国人ら」の名前に「さん」をつけて「被爆体験を持つ○○さん」「緒方貞子さん」と呼ぶのとは話がまるで違う。

 幕末ころには「天皇さん」という言い方が,京都の公家たちの間では使われたらしいが,そのころと今とでは「天皇」ということばの法的位置づけが違うし,「さん」の意味も変わってしまったから,今では使わなくなった。どうしても「天皇」だけでは面白くないという人は,復活させてはどうだろう。もっとも,よく使われる「社長さん」がしばしばあまり尊敬のこもった呼びかけではないことを連想して,皇室も宮内庁はきっと辞退するだろうと思うが。

 「天皇はエストニアを訪問された」「タリン市民の歓迎をうける天皇」と書いてまったく問題ないし,そうでなければ日本語としておかしい。言葉狩りは,時として滑稽である。 日本語という文化遺産を台無しにしても,それが日本文化の軽視とは思わないらしい。 (2011/01/11)

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コメント

産経の論旨についてのお考え、私も同意します。
しかし、産経らしい(笑)記事ですね。

投稿: papatanaka | 2011/01/11 13:59

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