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ウラル系の人々 - hõimurahvad

 エストニアの国会 Riigikoku に,10月の第3土曜日を「ウラル系の人々の日」と制定すべく,法律改正案を提案しようとしている議員グループがある。

 記事: Tähtpäevade loetellu võib lisanduda hõimupäev (Postimees 2011/01/15)

 エストニア語は「アジア系言語」【*注1】だと思っている向きも多いようだが,正確には「ウラル系」「フィン・ウゴル系」と呼ぶべきだ。ヨーロッパの言語の大多数はいわゆる「インド・ヨーロッパ系」だが,次に数が多いのがウラル系言語と考えて概ね間違いない。なお,言語は民族を区別する際の重要な基準の1つで,言語の系統関係をそのまま民族の系統関係とみなす考え方がいまでも根強い。いいかえると,ウラル系の言語を母語とする諸民族は,インド・ヨーロッパ系の言語を母語とする諸民族とは系統が違う,というふうに考える。言語の系統とは,人間の社会でいう家系のようなものとされるから,系統が同じ民族は親戚関係にあるとされる。

 エストニア語から見たとき,東のロシア語 (スラブ系),南のラトビア語 (バルト系),西のスウェーデン語 (ゲルマン系) はすべてインド・ヨーロッパ系で,ウラル系は北のフィンランド語だけだ。このうち,ラトビアとスウェーデンは,プロテスタントの国と見ていいが,ロシアはロシア正教の国だから,エストニア人とロシア人は,言語の系統だけでなく宗教の点でも違う。付き合いが難しいのも無理はない。

 「ウラル系の人々の日」と訳したが,エストニア語では hõimupäev (hõimu 一族の + päev 日) という簡単な名前である。hõim は日本語に訳しにくいが,本来の意味では「部族」「同族集団」「同胞たち」のように,近代的な意味での国家に統合される以前の民族集団を表すというふうに考えるのがいちばん分かりやすいかと思われる。だから hõimukeel というと,まず第一には「同胞の言語」「部族の言語」といった意味になる。しかし,ここから派生して, hõim は民族同士の関係についても使われる。すなわち,hõimukeel は「親戚関係にある言語」「同系の部族の言語」の意味にもなる。この意味の hõimukeel の同意語は sugulaskeel (sugulas- 親戚の) である。同様に hõimurahvas (rahvas 民族) は「同系の民族」「親戚の民族」ということになり, sugulasrahvas と言うのと同じ意味になる。さらには hõimuriik 親戚国家 という言い方まである。もちろん,フィンランドとハンガリーをさす。

 問題になっている hõimupäev の hõimu はこの後者の意味だから,この名前の意図するところを日本語訳するなら,同系の民族たちの日,平たく言えば「ウラル系の人々の日」ということになる。【*注2】

 10月の第3土曜日を「ウラル系の人々の日」とするのは,1931年にフィンランドのヘルシンキで開かれた「第4回フィン・ウゴル文化会議」がこの日をそう定めたことに由来するらしい。また,今年 (2011) はその会議から80周年にあたるので,それを記念して10月の第3土曜日を hõimupäev という名前の国民の祝日に制定しようというのが12人の国会議員たちの提案の趣旨という。

 関連ページ: ウラル系の言語と文化のページ

祝日      tähtpäev
ウラル系の人々の日 hõimupäev
部族,一族  hõim
国の,国立の riiklik
国会議員   riigikogu liige
法律改正   seadusemuudatus
土曜日     laupäev
法案      eelnõu
フィン・ウゴルの soome-ugri
民族,人々  rahvas
祝う      tähistama
出身,起源  päritolu
母語      emakeel
親戚民族   hõimurahvas
存続する   püsima jääma
親戚国家   hõimuriik
民族意識   rahvusteadvus
言語使用   keelekasutus
異文化     võõrkultuur
影響      mõju
先住民族   põlisrahvas
多様な     mitmekesine

【*注1】 ウラル系の言語が「アジア系」とされる理由の1つは,かつて「ウラル・アルタイ仮説」と呼ばれる考え方が根強くあったためだ。ユーラシア大陸に広く広がって分布するトルコ語・タタール語・カザフ語・モンゴル語などのアルタイ系の言語と,フィンランド語・エストニア語・ハンガリー語などのウラル系の言語が系統を同じくするという考え方である。日本語もアルタイ系だとする考え方があるから,この2つが結びつくと,日本語はフィンランド語やエストニア語と同系,つまり遠い親戚ということになる。この考え方は,日本ではいまでも根強く残っているようだが,日本人が思っているほど,ウラル系の人々の間では信じられていない。日本人の間違った思い込みによる片想いであると考えておいたほうがいい。なお,soome-ugri フィン・ウゴル は,言語学的には uurali ウラル と同じ意味ではないが,ふつうの用法では,前者が後者と同じ意味で用いられることが多い。

【*注2】 エストニア語の hõim にあたるフィンランド語は heimo だが,フィンランド語の heimo は最初の意味だけで使われ,後者の意味では,sukukieli, sukukansa (suku 一族, kieli 言語, kansa 人々) のように suku が使われる。私がヘルシンキに留学していた頃は,エストニア語,カレリア語などのバルト・フィン諸語は lähisukukieli (lähi- 近い),バルト・フィン諸語以外のウラル語は,サーミ語も含めて etäsukukieli (etä- 遠い) と呼ばれていて,ウラル言語学を専攻する学生は,それぞれから1言語ずつ勉強するのが必修だった。私はエストニア語とハンガリー語を選んだが,ハンガリー語のほうはものにならなかった。

Hõimurahvaste asualad.

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コメント

先生の最初のヘルシンキへの留学、フィンランドへの興味の原点は何だったのでしょうか。自分は、旅行で訪れたときにエストニアの街の美しさに魅了されエストニア語の勉強を始め、数か月経ちました。今では高校卒業後にエストニア留学も考えているのですが、このことを話すと日本人の多くのには”なぜエストニア?”と聞かれます。自分では日本人にあまり認識されていないからこその魅力もあると思っているのですが。

投稿: D1994 | 2011/01/17 02:24

私の場合はあまり参考にならないと思います。フィンランド語やエストニア語が勉強したかったというのが動機だったので,シベリウスの音楽などにはほとんど興味がなかったし,知らなかった。興味が沸いたのは,留学した後からです。

フィンランドの歴史とか文化についてはほとんど予備知識がなくて,フィンランドで学ぶことばかりでした。エストニアについても同じです。だから,フィンランド人やエストニア人の偏見のようなものも一緒に教え込まれたような気がします。

投稿: ブログの主 | 2011/01/17 02:42

今は自分も予備知識無しで留学を考えていますが、言語を学びたいとの理由で留学を決めた時に将来の不安はありませんでしたか。エストニア留学後の将来が、日本人の例が少ないので、どうなるのか少し不安です。

投稿: D1994 | 2011/01/17 09:48

そうですね。日本での就職に有利になったという話はまず聞きません (笑)

投稿: ブログの主 | 2011/01/17 10:51

日本で就職することは考えていないのですが、どの国でもそう上手くいくことはないだろうと思っています。どこに行くにしろ知識や学力、語学力は必要になるので、あと2年いろいろ調べ、検討したいと思います。
エストニアについての情報を得られる場所は限られているので、先生のブログにはとても感謝しています。これからもよろしくお願いします。

投稿: | 2011/01/17 12:39

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