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適切さを欠く - ebatäpne

 「留学ニュース」という日本のサイトに,先日発表されたOECDの国際学力調査 PISA で成績の悪かったイギリスのウェールズについて,次のように書かれている。

イギリスを構成する地方の一部であるウェールズは、国内でも学力が一番低い地方になってしまった。もちろん国際学力の平均点496点を下回っている。他国と比べると学力が低いとされるポーランドやエストニアと同レベルという状態だ。

 ポーランド人やエストニア人に失礼である。こんな言い方をウェールズの関係者が本当にしているとしたら国際問題になりかねないので,まさかと思って,原文と思われる箇所を WalesOnline.co.uk で検索してみた。

A study by the Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) found Wales languishing well behind countries such as Poland and Estonia in reading, maths and science.

 おわかりと思うが,「他国と比べると学力が低いとされるポーランドやエストニアと同レベル」などとはどこにも書いてない。「ポーランドやエストニアなどより遙かに下」と事実を述べているだけである。もちろん,記事を読んでポーランドやエストニアについてそういうイメージをもつ読者はいるに違いないが,だからといってそれを書いてしまったら,たいへんな問題になる。

 エストニアに関わりの深い人間として,また,先日 (12/14) たまたま,ニューヨークの民間の研究所でコンピュータを使って言語の研究をしている優秀なポーランド人の研究者と話す機会があったばかりの人間として,日本の海外留学情報なるものはこれほどまでに適切さを欠いた言葉遣いを平気でしているかと,嘆かわしく思った。こんな情報で留学先を選ぶのだから,日本で国際人がなかなか育たないとしても無理もない。

 参考までに,イギリスの国としての順位の国際比較をしておく。なお,上海,香港,マカオは国ではないので無視して順位を数えている。

 科学: 日本3位,エストニア7位,イギリス14位,ポーランド16位
 国語: 日本6位,エストニア11位,ポーランド13位,イギリス23位
 数学: 日本7位,エストニア14位,ポーランド23位,イギリス26位

 早い話が,イギリスはどの科目でもエストニアの遙かに下であり,ポーランドには国語で引き離され,科学と数学で競っているというのが現実の姿である。とくに,エストニアに関する限り,今回の PISA テストでの成績は,むしろ高得点のほうなのである。「他国と比べると学力が低い」という結果がでたのはむしろイギリスという国であって,ウェールズだけの問題ではないのだということをはっきりと書くべきである。

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コメント

東欧に対する侮蔑には実証的な理由など何もなく、過剰適応の心理から来る感情的な一種の主義であって、偏見を持っている人に対して理屈での反論は通用しません。留学ニュースはときおりその種類の偏見を露呈しています。

今回はエストニアまでもが被害者になっていたのは特別なケースで、イギリスやオランダでの日本人向け日本語ニュースサイトは全般的に明白なポーランド人侮蔑「主義」がみられます。それらの記事を読むと彼らが現地社会に過剰適応するあまり現地人の極右思想を身に着けてしまっているのがおわかりになると思います。

ですから、理屈による批判はまったく効果がないと思います。むしろ批判すればするだけ逆効果で、現地在住日本人による東欧人差別は激化するでしょう。

投稿: クマール・ラジャ | 2010/12/16 01:16

ポーランド人に対する「偏見」については,私も少し耳にしたことがあります。いわゆる「西欧」だけでなく,同じく東欧とみなされていたハンガリーでさえ,その種の「ポーランド人観」をもつ人がいるようでした。日本では,欧米とまとめてますが,欧と米はまったく違う世界なのはもちろん,欧の中も決して同じではないようですね。

現地在住日本人が「現地社会に過剰適応する」というのはどういうことか,わかりやすく説明していただけますか。「現地在住日本人による東欧人差別」の実態についてももう少しお聞きしたい気がします。

イギリスやオランダにある「日本人向け日本語ニュースサイト」をぜひ具体的に教えていただけますか。

投稿: ブログの主 | 2010/12/16 08:46

この場合に現れる過剰適応は、心理学上の過剰適応症状の典型例です。これは、彼ら在住日本人たちが見た目も中身も現地とは異質なアジア人である自分たちがその極右思想の攻撃対象になりかねない恐怖から、その恐怖を意識するしないにかかわらず周りの極右思想を敏感に感じ取り、頼まれもしないのに自分から積極的に極右思想の側に取り入って、現在のところ攻撃の対象となっている人々に関して侮蔑的な感情を持つことで、極右(彼らがイメージの中で真実の姿なのだと結論しているところの現地社会)に認められることにより自らの安全を図りたいと考えるようになり、結果として極右と同じ言動をしてしまうようになる倒錯的心理です。つまりこの心理的構図は、学校や職場などで頻発するイジメと全く同じです。

この種の過剰適応で歴史的に有名な例は、アドルフ・ヒトラーです。彼がドイツに移住した途端ユダヤ人差別をあからさまに行うようになったのも、オーストリアとは文化の異なるドイツ社会への過剰適応の症状の典型例で、彼はそうすることで自己の立場の安定を図ったのです。ドイツには「歴史学派」という、ヘーゲルの流れをくむ倒錯した社会哲学のフレームワークがありますが、これがドイツとは異質なオーストリア社会とドイツと隔てる決定的要因です。

私はハンガリーにも住んでいたことがありますが、ハンガリーではポーランド人に対する差別感情は一般的にはないと言えます。両者は歴史的に最も仲の良い国民として有名で、ハンガリーには「レンジェルたち(レック人=ルーク人はポーランド人のもとの自称で、レンジェルはこのハンガリー語訛り)だけはわれわれマジャール人が永遠に仲良く酒を酌み交わせる親友」との意味のことわざがあるほどです。世界金融危機からはむしろ彼らは彼ら自身の社会や政府へのいら立ちとともに、ポーランド人に対して劣等感や憧れを持っているように見えます。ハンガリーで見聞きされたその非常に稀なケースに関しては、そういった情報の受け手となる日本人の側の過剰適応の原因となる「感受性」も関わっているものと思われます。

私はこの「感受性」自体を批判しているわけではありません。海外に住む日本人は誰しもそういう感受性が敏感になります。ここまでは自然なことです。私が批判的に見ている過剰適応というのはそこから先についてのことです。そういった現地の土着的偏見に直面した際、理性でもって実証的に対応せず、自らそういった感受性の心理的奴隷となってしまう、理性の足りない行動をする一部日本人のことです。彼らはこの症状の特徴として行動がより積極的になるため、余計に性質が悪いのです。こういうのは西欧と北欧に「定住」しておられる日本人に特に多いようで、その手のことを見聞きするのは専らそういう地域の在住日本人からです。グローバル社会の今、これには実害が伴うことが考えられるだけに、彼らの言動はつくづく困ったものです。

昔のドイツや冷戦崩壊後の欧米の論調の影響でしょうか、エストニア人のような旧ソ連人やポーランド人に対する侮蔑感情は高等教育を受けた日本人の間には広く見られるとは思いますが、これも同様の過剰適応症状といえるかもしれません。また、日本人を含めた東アジア人はヨーロッパ人よりもはるかに激しく根強い民族主義感情を持っていると思います。日本人や韓国人などの東アジア人はヨーロッパの人々を民族で分けないとどうしても気が済まないようで、Wikipediaを読むとその点が際立っています。もともと東アジアには極右的感情の心理的土壌がしっかりと根付いているのではないでしょうか。ですからヨーロッパに住んでも極右思想との親和性が高くなるのではないかと思っています。

エストニアも金融危機後に真面目に取り組んだ禁欲政策のおかげで、財政健全化のめどがたち、今後は緩やかながらしっかりした回復を期待できるようになりました。もちろん今後のことは今後の政策次第ですが、エストニアはすくなくとも過去の失敗が招いた袋小路からは脱することでき、バブル処理としてエストニアがおこなった禁欲政策はポーランドが1990年代から行っている社会改革(このためポーランドはエストニアが近年経験したような激しい金融・不動産バブルを抑えることができ、当然の帰結として激しいバブル崩壊もなかった)とともに、ヨーロッパでは称賛の対象となりつつあります。これらが実を結びつつある今、イギリスあたりはこれまでの侮蔑感情とは逆に、エストニアやポーランドに劣等感や憧れを持つようになるでしょう。(実際に、欧米のメディアは両国を称賛しています)。こういう場合の人間の心理はどこも同じですから、同時に妬みも、となりましょうが。

投稿: クマール・ラジャ | 2010/12/17 00:20

むずかしいことは解りませんが,ヒトラーとスターリンとナポレオンの共通性として,いずれもお上りさんだったという説は聞いたことがあります。故郷に錦を飾りたかったということでしょうか。ナポレオンは少しばかり歴史的に評価されることがあるよですが,ほかの2人は歴史上の大迷惑でしたよね。

英米に住んでいる(らしい)日本人たちの日本語での意見や物の見方に接して私がしばしば感じるのは,情報源が狭いということにつきますね。英語の情報源すらちゃんとカバーできていない人が多い。残念なことですが,だから日本語で問題発言をしてしまうんでしょうけど。

戯言でした。

投稿: ブログの主 | 2010/12/17 14:04

タリン在住の日本人です。いつも楽しく読ませて頂いております。
問題の留学ニュースはまあ論外という感じですが、そもそもの問題はイギリス人の「旧ソ連」だから我々よりも全てにおいて劣っているだろうという思い上がりなのではないかと思います。このOECDの調査についてのBBCのニュースも「イギリスの学校はエストニアとポーランドより下」という「センセーショナル」なタイトルになっています(下のリンクから、アナウンサーが「どーして教育費倍増したのにエストニアとポーランドより下なんだ!」といって当時の教育政策担当者に詰め寄るのが見れます)
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-11950992
以前スウェーデンのシンクタンクが発表した医療制度の国際比較でたしかエストニアが11位でイギリスのNHSが13位だったときも、「NHSはエストニア以下!」というような見出しのニュースを読みました。(下のリンクはその一例です)
http://www.dailymail.co.uk/news/article-1085437/Our-health-service-WORSE-Estonias.html
両方の医療制度のお世話になった経験のある私には驚きでもなんでもないんですが、こういう見出しがよく書かれるということは、イギリスでは未だにエストニアは遅れた貧しい国という先入観があるんでしょう。イギリスにはそういう古い先入観を捨てて、小国から学ぼうという謙虚な態度で改革にあたって欲しいものです。まあ国際比較自体あまりしない日本人に言われたくはないかもしれませんが。

投稿: ながつ | 2010/12/20 05:35

コメント感謝。イギリス人の思い込みも問題ですが,それをそのまま日本人が自分たちの思い込みにしてしまうとしたら残念ですよね。別の方が過剰適応と言っているのは,そういうことを指しているのかもしれない,と思いました。

たとえば,合衆国のことについて,あなた,自分がアメリカ人のつもりなの,と言いたくなるようなコメントをして得意がっている評論家などが日本のテレビによくでますが,そういう人たちもこのカテゴリーかな,と思いました。日本人は,自分の頭でものを考えないといけないのに,英米人のアホな部分にまで同化してしまう。日本の「英語教育の弊害」は,これかな (笑)

そうそう,エストニアにいるといつのまにか「ロシア人嫌い」になります。これは,イギリス人の東欧に対する偏見と同じタイプの心理現象だと思います。

投稿: ブログの主 | 2010/12/20 11:56

日本にいると「中国人嫌い」になるのに似てますね。私の場合隣近所に住んでいる家族がロシア系で、よく行くクライミングジムの連中も何故か殆どロシア系なので、日常的に接触がある分偏見はそれほどないかなと思いますで(エストニア語の練習にはならないという問題はありますが)。まあこれも私が現地人になりきれていない証拠ですかね。フィンランドに4ヶ月ほど滞在したことがあり、今でもたまにヘルシンキにも行くんですが、フィンランド人もエストニアには結構偏見を持ってるなという印象を受けます。知り合いのエストニア人は「だから出稼ぎをするなら隣のフィンランドじゃなくてエストニアについて全く知らないアイルランドとかの方が差別を受けなくていい」といったのを覚えています。
ロシアつながりで下のような記事をPostimees.eeで見つけました。自分のエストニア語はおぼつかないので、解説を期待しております。
http://www.postimees.ee/?id=359283

投稿: nagatsu | 2010/12/21 05:15

問題の記事は,日本に (たぶん90年代) 働きに来て日本人と結婚したロシア系エストニア人の女性が,親戚の反対を押し切って (?),家族 (夫+子ども2人) で故郷のナルヴァに移り住んだという話の続きのようです。確か春にも同じ家族の話題が記事になっていたと思います。

日本人の家族がナルヴァで寿司屋を始めた,と書いてあったので,日本人家族ではなくて,日本人+ロシア人の家族と書かないと紛らわしいというコメントを私は書きました。

組み合わせが珍しいというだけで,日本で言うところの国際結婚は,エストニアでは珍しくもなんともないので,とくに取り上げませんでした。他の組み合わせの家族の話も以前載っていたように記憶してます。それに,少しだけですが,官製の「模範国際結構事例」の印象があったということも,紹介しなかった理由のひとつです。もっとも,模範事例の記事であることが見え見えのものでも紹介したことがあるので,方針は一貫してませんが。

投稿: ブログの主 | 2010/12/21 11:54

解説ありがとうございます。いかにも模範事例というニュアンスまでは分かりませんでした。確かにエストニア人が国際結婚(事実婚)するのは珍しくないですよね。自分の周りを見回しても、イギリス、オランダ、ドイツ、スイス、ギリシャから始まってレバノン、パキスタン、バングラデシュ、日本と、いろいろな組み合わせがあります。

投稿: nagatsu | 2010/12/22 05:08

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