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ヴィル・ホテル - Viru hotell

Virumaa. Wikipedia. 来年(2011)1月13日,エストニアの首都タリンの Viru hotell ヴィル・ホテル(現在の正式名は Sokos Hotel Viru) の最上階23階が,ホテルの歴史博物館として一般市民に公開される。ガイド付きの見学ができるようになると書かれているので,見学は申し込み制かもしれない。これまで,このホテルの最上階は公式にはレストランのあった22階ということになっていた。見晴らしのいいレストランで,私も何度か行ったことがあるが,今はもうなくなったらしい。

 ホテルの幻の最上階は,悪名高きホテルのKGB ソ連邦公安警察【*】の盗聴設備のあったところだとされる。盗聴室の場所については,ある読者がコメントで「2階にあったはず。23階にあったのは,無線傍受設備だった」という説を出している。私も盗聴室は2階にあるらしいという話を何度も聞いていたので,23階にあったというのはこの記事で初めて知った。ホテルの屋根にはアンテナが何本もあったわけだから,無線傍受をしていたのは本当だろう。なお,2階がエレベーターが停まらない階だったのは事実である。ここに,ホテルのKGB責任者のオフィスがあったのは確かだろう。盗聴マイクが仕掛けてあったのは60室で,外国から要注意人物がやってきたときには,それらの部屋に割り振るようになっていたそうである。

 ホテルの従業員は現在210人,それに対してかつては900人もいた時代があるという。客室のあったのは5階から21階までで,各階には,階の管理人 (いかにも実直そうな熟年女性で,宿泊客の部屋の鍵の管理をする) を含めて6人の従業員 (いずれも熟年女性) が配備されていたというから,この人たちだけで102人もいたことになる。今からは信じられないが,ソビエト時代のホテルは,チェックインはフロント,客室の管理は各階ごとだった。だから,階の管理人と親しくなれば,その階には自由に出入できた。ヘルシンキに住んでいたときには,2泊3日のツアーで Viru hotell によく泊まったが,ツアーはふつう2人の相部屋だった。あるとき,フィンランド人の相棒が夜中に女性を部屋に連れ込んで迷惑だったなので,管理人に苦情をいったが,あの女性は問題ないという答えが返ってきただけだった。

 今でこそ,外国人の利用するホテルの従業員は,部屋の清掃が専門のメイドさんたちは別としても,基本的に外国語ができることが採用に有利に働くが,ソビエト時代には外国語ができない人のほうが有利だった。へたに外国語ができると,外国人との接触が自由にできると考えられて,敬遠されたのだ。ホテルの従業員は,外国人客と仕事以外の話題で言葉をかわさないよう厳しく言い渡されていた。そのかわり, Viru hotell は4~6人の通訳専門の職員を置いていた。そういった職員たちの冊子型の職員身分証も展示されるという。身分証からわかるように,ホテルの従業員たちはみなソ連邦の国家公務員だった。サービスが悪かったわけである。

 それにしても,ソビエト体制崩壊後20年間,開かずの最上階がホテルにあり,そこに20年間大切に(?)保管されていた盗聴装置などが今になって一般公開されるというのも,考えれば不思議な話ではある。なお,事情に詳しくない人のために付け加えれば,外国人旅行者が泊まることを許されたホテルにKGB職員が働いているオフィスがあったこと自体は,ソビエト時代なら当然のことで驚くことではない。たとえば,科学アカデミーのなかにも,国際交流部門というのがあって,ここは基本的にKGB職員の部署だった。外国人研究者がエストニアに行くと,必ずそこのスタッフにお世話になったものだ。しかし,最先端の盗聴装置を備えた機械室があったのはおそらくホテルだけだろう。1980年のモスクワ・オリンピックに備えて建てられた Olümpia hotell オリンピア・ホテルにはどんな設備があったのだろうか,興味津々である。

 記事: Viru hotelli salakorrus avatakse külastajatele (Postimees 2010/11/06)
 関連ページ: Viru は Viro ではない - Viru ja Viro (2010/11/07)

【補足】 ラトビアのリガで発行されている週刊新聞 The Baltic Times (2011/02/03) によると,KGB博物館は文化首都 2011 と連動した今年だけの企画のようで,12月末には閉館する。博物館に関しては,この英語のページが一番詳しそうである。(2011/02/08)

 関連ページ: 'Hotel Viru and the KGB’ Museum opens on 13 January

【*注】
 KGBは,ロシア語の Комитет государственной безопасности の頭文字КГБのラテン文字転写で,「カー・ゲー・ベー」はそのロシア語頭文字のカタカナ読み。日本語では「ソ連国家保安委員会」と訳される。エストニア語では通常 Julgeolek 「公安」と呼ばれた。なお,julgeolek は「安全,安心」の意味の普通名詞で,今流行の「セキュリティー」の意味でも広く使われる。

ホテル     hotell
秘密の階   salakorrus
盗聴装置   pealtkuulamisseadmed
盗み聞きする pealt kuulama
装置,機械  seadmed
展示      väljapanek
公安警察職員 julgeolekumees
公安警察,秘密警察 julgeolek
街の眺め   linnavaade
外国人旅行客 välisturist
折りたたみ式パンフレット voldik
ブロンズ兵士像 pronkssõdur
職員証     töötõend
通訳      tõlk
ソビエト時代に nõukogude ajal
職員,従業員 töötaja
当時の     toonane
今日の     tänane
階の女性管理人 valvuritädi
労働組合   ametiühing
会議      koosolek
議事録    protokollid

1980年代初期のものと思われるタリン観光案内。左から,Viru hotell,
ブロンズ兵士像,Olümpia hotell。トーンペア丘に砦が最初に築かれた
のは 1154 年とされる。
Kolm olulist objekti kunagisel reklaamlehel.

ホテルの職員証の表紙。いろいろな色のものがあった。ロシア語で
「外国旅行業務ソ連邦国家委員会 タリン支部 ヴィル・ホテル」と印刷
され,連邦国家の施設であったことがわかる。ここでの外貨収入はもち
ろんモスクワの中央政府の金庫に入った。
Kunagine hotelli direktori laud, mis oli tol ajal luksuse tipp.

ホテルの総支配人の事務机。総支配人は応接室のような部屋で仕事
をしたと思われる。 Tööplan と書かれている壁のボードは,別の場所
のものだろう。
Kunagine hotelli direktori laud, mis oli tol ajal luksuse tipp.

ホテルのKGB室の盗聴装置。
Vangid võivad saada õiguse valida

ホテルのKGB室の壁。
Vangid võivad saada õiguse valida

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