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キャッシュレス社会 - sularahavaba

 「この際現金を廃止してしまおう」とエストニアのタルト大学の経済学教授 Raul Eamets が提案したという話が早くも日本に伝わってきたようだ。

 日本語記事: エストニアの経済学者、国を挙げたキャッシュレス化を提案 (Livedoor 2010/11/24)

 この話のネタは,エストニアテレビのオンラインサイトの記事の Google 英語訳らしいことが,日本語記事のリンクからわかる。問題のエストニア語の記事には,エアメッツ教授の講演 (15分ほど) の映像もついている。

 記事: Raul Eamets: Eesti võiks loobuda sularahast (ERR 2010/11/20) [映像あり]
 記事: Eamets: Eesti sularahavabaks! (Tarbija24 2010/11/20) [映像あり]

Professor Raul Eamets. 日本語の紹介記事では,同教授は現金を廃止する理由の一つに「キャッシュレス化によって現金を扱うことにかかるお金を削減できる」ことを挙げているかのように書かれている。しかし,私が映像で講演を聞いた限りでは,この話は,聴衆に現金,とくに硬貨を流通させることそのものにお金がかかっているということを認識させ,それを考えれば,銀行カードやお財布携帯などのIT技術に全面移行するための費用は決して高くないということを聴衆に納得させるために持ち出された話題に過ぎないように思われる。

 次いで同教授は,現代社会では,現実に現金が必要なのは,いわゆる裏の経済に相当する場面がほとんどではないか,と指摘する。裏の経済には,違法薬物の闇取引のような犯罪や,いかがわしい飲食店や,売春の支払いのような場合のほかに,隣人に農作業を手伝ってもらったときにお礼を支払うときなども含まれる。エストニアでも,町の商店の売り上げの7割はカード取引と言われている。会場の聴衆に挙手させると,カードを1枚ももたない人はゼロだったのに対し,3分の1が,財布の中に 15 クローン (1ユーロ弱) 以下の現金しかもっていないと申告した。

 こういった前置きの後で,エアメッツ教授は,かつて balti tiiger バルト海のタイガーIT-tiiger ITのタイガーと呼ばれたエストニアが最近元気がないことを指摘する。

Peaks midagi ette võtma - paneks selle tiigri uuesti hüppama, vaatame, mis saab! Siit tuleb minu idee - mis oleks, kui loobuks sularahast?!

今何かをしないといけない。眠れる虎をもう一度跳び立たせて,ほら,こんなことができるというために。そこで私はこう考えてみた。もし私たちが,現金を廃止したら,どんなことになるだろうか?!


眠っているエストニアのタイガーを呼び覚ますには,世界に先駆けて,現金そのものを廃止してしまうくらいの思い切ったことをする必要があると,エストニア人を鼓舞しているのではないか,と私は読んだ。

 同教授は,自分はユーロ導入に反対している訳ではないと断りつつも,エストニア人にとって親近感のないデザインのユーロ紙幣が導入されるこの時期は,エストニアで現金の廃止にもっとも適したタイミングであると指摘する。現金を使わない社会が具体的にどうなるかとなると,やや歯切れが悪くなるが,銀行カード,クレジットカード,お財布携帯のような技術と指紋照合を組み合わせたシステムをイメージしているようだ。

 現金廃止はとりあえずエストニアだけで行われるわけだから,外国からやってくる旅行者などはどうするかという問題については,外国人が安心してカードで支払いのできる社会にすることが大切だとする。また,もしどうしても現金でないと困るという外国からのお客様のために,現金払い専門の土産店を作ってはどうだろう。この種の二重経済をエストニア人はすでにソビエト時代の外貨専門店 (いわゆるドルショップ) で経験しているではないか。講演の締めのことばはこうなっている。

Kokkuvõttes: Eesti muutuks läbipaistvaks riigiks. Kui võidab riik, peaksid lõpuks võitma ka inimesed. Meie uus slogan võiks olla: "Eesti, riik, mida saab usaldada!"

結論をいえば,エストニアは中で何が起こっているか外から見える国になるべきだ。国がここで困難を克服すれば,国民も勝利者になる。私たちのこれからの合い言葉は「エストニアは信頼できる国」でどうだろうか。


 この話,これだけで終わるのかと思っていたら,エストニア経済界の著名人によるかなりまともなコメントが Postmees 紙のサイトに掲載された。幸い,社会のキャッシュレス化の考え方に対しては「エストニアのタイガーをもう一度蘇らせようとする考えは面白いが,現金を廃止することでそれが可能になるとは思われない」「現金は,今後,その流通量が減っていき,その役割も大きく変わっていくのは確かだが,すぐなくなることはない」といった考え方が,現実のエストニアでも支配的のようである。

 記事: Tallo: sularaha võiks radikaalselt vähendada (ERR 2010/11/23)
 記事: Tallo: sularaha võiks radikaalselt vähendada (Tarbija24 2010/11/23)

現金        sularaha
キャッシュレスの sularahavaba
経済        majandus
裏の経済     varimajndus
虎         tiiegr
再び        uuesti
跳ぶ        hüppama

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