空の色はどんな青? - sinine
エストニアの合唱曲が人気があるようだ。ヴェリヨ・トルミス Veljo Tormis の作曲した合唱曲がとくに人気があるようで,詩を訳してほしいと頼まれたりすることがある。白状すれば,トルミスの合唱曲の詩は難しいものが多くてうまく訳せないことが多い。
トルミスが1968年に作曲した女声合唱曲 Talvemustrid 「冬の紋様たち」の4つの詩は Andres Ehin アントレス・エヒンという詩人の作品である。この詩人はエストニア語の俳句も書いているらしいが,詳しいことは Vikipeedia (エストニア語の Wikipedia) などを参照されたい。合唱曲で最初に歌われるのがこの詩である。
この詩のことを教えてくれたA・Hさんと,この詞に出てくる「冬の朝の空の青さ」とはどんな青なのか,という話題で何度か意見を交わした。言語学者の立場から言うと,この sinine がどんな色なのかを突きとめることも面白いが,意見がぴったり同じにならないことのほうが実は面白い。青のような自明と思われる色の場合でさえ,ことばで伝えることがいかに危ういかがわかるからだ。たとえば「目には青葉山ほととぎす初鰹」の「青葉」は少しも「青く」ないし,「緑のかんざし」(=緑の黒髪)は,葉緑素の「緑」ではない。詩「冬の朝」の「冬空の青」がどんな色なのか,私の考えを書いてみる。ただし,これが「正しい」と主張するつもりはない。私がイメージする「冬の朝の空の色」にすぎない。
エストニアの緯度 (北緯60度近い。北海道の宗谷岬が北緯45度付近) では,冬は極端に日が短く,朝の通勤時間でもほぼ真っ暗だ。真っ暗な空の色は黒に決まっていると私は思い込んでいたのだが,左上の写真のように,少し光があるとき,空は紺色に見える。空は夜でも「青い」のである。
日本の伝統色の濃い青色の名称はこんなふうになっているらしい。
紺色 (こんいろ) ─ 紺青 (こんじょう) ─ 留紺 (とめこん)
濃藍 (こいあい) ─ 鉄紺 (てっこん)
また,コンピュータ用に定義されている色の名前では,このあたりが濃い青に当たると思われる。とくに midnight blue は夜の色にぴったりの名前だ。参考までに,RGB 値でいうと,上の5色は midnight blue (#191970) とほぼ似たような色合いである。
dark blue ─ navy ─ midnight blue
問題の Ehin の詩の「冬の朝の空の色」の sinine は,この写真のような色合いの濃い青,有名な小説のタイトルをもじるなら「限りなく黒に近いブルー」を指しているととるのがいちばんいいのではないだろうか。この発見のあとは,夜の空が黒く見えなくなったから不思議である。紺色の空の写真は,ほかにもネットで容易に見つけることができる (例: 風車そして紺色の空)。また,「藍色の空」の写真を話題にしている女性のブログ (藍色の空に。。) があり,書き込まれているコメントも面白い。
と言うわけで,上の詩の訳で「青い」「青の」となっているところを「紺青の」あるいは「濃藍の」で置き換えたのを私の日本語訳としようかと思っている。
関連ページ: 青ってどんな色? - sinine (2010/10/27)
【補足】 「藍色の空」について加筆 (2010/11/08); 写真へのリンク追加 (2010/11/14, 2010/11/23)
(つづく)
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