浮気 - kõrvalehüpe
エストニアの日刊紙 Postimees の女性向けサイトに,浮気が露見したあと,どうやって関係を修復するかというテーマの記事があった。「双方に関係を修復したいという強い意志があればもとのような関係に戻ることは可能である。今のパートナー関係を解消してしまうのもひとつの解決方法だが,きちんと問題を解決してから別れないと,未解決のまま残った問題が,新しいパートナーとの関係に影を及ぼすことが多い。まず今の関係を修復することを考え,分かれるのは最後の手段と考えたほうがいい」と,家族問題の専門家は言っているそうである。専門家の意見が,専門家でない人の意見とぴったり一致する極めてめずらしい事例である。
記事: Kuidas taastada lähedus pärast kõrvalehüpet? (浮気のあとで親密な関係を修復するにはどうするか)
日本語の「浮気」と「不倫」は,つまるところ同じ行為の別の言い方に過ぎないように思われるが,完全な同義語ではない感じがする。何が違うのだろうか,2つのことばの使い分けを言語学的に考察してみた。浮気と不倫の違いは,問題となっている事態を見るときの視点の違いではないかと思われる。
浮気も不倫も法律的に正式な言葉ではなく,法律的には「不貞行為」「貞操義務の不履行」などと言うべきものらしい。かつて不義密通,あるいは姦通罪ということばがあった時代には不貞行為は犯罪だったが,現在は刑事罰に問われない。
AとBの2人が,夫婦,事実婚,ないし恋愛の関係にあるとする。このことを,AとBは正当なパートナーの関係にあるということにしよう。2人のうちで不貞行為をするのがB,その相手をCとするとき,BとCの関係を正当でないパートナーの関係と呼ぶことにする。話を簡単にするために,A,B,Cは3人とも同性愛者ではないとする。つまり,AとCは同性,Bだけが性別が違う関係だけを考える。なお,Cに正当なパートナーがいるかどうかは,この議論には直接関係してこない。
浮気という概念が適用されるのは,BとCの関係を,Bと正当なパートナー関係にあるAの視点から見た場合である。このとき,Aは「BがCと浮気をしている」と捉え,Bは「自分はAに隠れて浮気をしている」と思う。BとCの関係を浮気と表現する場合,事態の主役はAとBであり,Bの浮気相手のCは脇役である。Cの立場からは浮気ということばは使わない。
これに対して,不倫という概念は,BとCの間の正当でないパートナーの関係を,当事者であるBとCの視点から見たとき,あるいは,第三者たちがそれを他人事として見たときに適用される。このとき,Bは「私はCと不倫している」,Cは「私はBと不倫している」,第三者たちは「BとCは不倫をしている」などと表現する。BとCの関係を不倫と表現する場合,事態の主役はBとCであって,Bの正当なパートナーであるAは脇役となる。Aが「うちのBが誰かと不倫している」と言うと,まるで他人事のように聞こえてしまう。
まとめると,浮気は,BのCに対する関係を,正当なパートナー関係を崩壊させる方向に働く力のモーメントとしてとらえたときの言い方である。これに対し,不倫は,BとCの関係を,正当でないパートナー関係を作る方向に働く力のモーメントとしてとらえたときの言い方である。AがBとCの関係に関する調査を探偵に依頼するとき,浮気調査ということばが使われ,不倫調査と呼ばない理由は,こう考えると説明がつくと思われる。
エストニア語の kõrvalehüpe は,字義通りには「kõrvale 脇へ+ hüpe 跳ぶこと」なので,日本語訳としては,不倫ではなく浮気と訳すのが適当である。エストニア語で貞操に相当する語は truudus ─ truu 忠実な + -dus こと ─ であり,不貞行為に相当する語は truudusetus ─ truuduse 忠実さ+ -tus ないこと ─ である。なお,この2つの語は婚姻関係以外でも使われるので,とくに不貞行為を表すことを明確にする時には,abielutruudusetus ─ abielu 結婚,婚姻関係 + truudusetus 貞操がないこと ─ と言う。
修復する taastama
親密な関係 lähedus
浮気 kõrvalehüpe
関係 suhe
機能する toimima
ふたりで kahekesi
正直な aus
誠実な siiras
相互の vastastikune
責める süüdistama
壁 sein
目的に適した otstarbekas
これまでとは別のしかたで senisest teisiti
繰り返す korduma
後戻りさせる tagasi keerama
真剣に tõsiselt
理解 arusaam
可能な理解 tõlgendusvõimalus
いさかい tüli
歪んで viltu
感情 tunne
考え mõte
恐怖 hirm
期待 ootus
立場,意見 seisukoht
理由付け põhjendus
見方,視点 vaatenurk
解決する lahendama
共同生活 kooselu
終りにする lõpetama
別々に eraldi
信頼 usaldus
愛情 armastus
忠実な truu
忠誠心,貞操 truudus
忠誠心を欠くこと truudusetus
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