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40人のエストニア人による公開書簡 - 40 kiri ehk Avalik kiri ENSV-st

 10月28日の木曜日, 日刊紙 Postimees 紙のサイトに,「エストニア社会主義共和国発,『プラウダ』紙,『民衆の声』紙,『ソビエト・エストニア』紙宛の公開書簡」と題するエストニア語の文章が,解説抜きで掲載された。有名な「40人の手紙40 kiri のエストニア語原文の全文である。30年前の1980年10月28日の日付のあるこの文書に署名をした40人の名前も記載されている。40人の中には,日本でも名前が知られている Tõnu Kaljuste トヌ・カリユステ(指揮者)や Jaan Kaplinski ヤーン・カプリンスキ(詩人) の名前もある。

 記事: Avalik kiri Eesti NSVst ajalehtedele Pravda, Rahva Hääl ja Sovetskaja Estonija (Postimees)
 手紙の英訳: Letter of 40 Intellectuals (Sirje Kiin の個人ページ)
 関連ページ: 40 kiri - Avalik kiri Eesti NSV-st - Letter of 40 intellectuals [40人の手紙について]

 この手紙ではエストニアの次のような現実が指摘されている。そして,文化的・言語的多様性を保障することが,社会の安定の前提条件であることが,穏やかだかきっぱりとした表現で主張されている。

 ・エストニアにおける非エストニア人の人口の増加により,とくに首都タリンでは,エストニア人が言語的少数者になる恐れがある。
 ・エストニア語・エストニア文学の学位論文までロシア語で執筆することが義務づけられるなど,エストニア語の使用制限が強化されつつある。
 ・エストニア人にだけ二言語使用を強制する言語政策が行われているが,これはエストニア人の母語の尊厳という観点からは容認しがたい。
 ・エストニア人の文化を知らないし,興味も持たない人物が,エストニアの文化政策担当者に任じられている。

そして,次の文で締めくくられている。

Me soovime, et Eesti saaks ja jääks maaks, kus ükski inimene ei peaks tundma solvanguid ja takistusi oma emakeele või päritolu pärast. Kus rahvusrühmade vahel on mõistmine ning pole vihkamist, maaks, kus valitseb kultuuriline ühtsus mitmekesisuses ja keegi ei tunne oma rahvustundeid või kultuuri ohustatuna.

 私たちは,エストニアが,誰ひとり,自分の母語や出身のために心を傷つけられたり,妨害されたりすることのない国となり,そうあり続けることを願う。つなわち,民族集団の間に相互理解があり,憎しみのない国,また,多様性の中に文化的一体性があり,誰ひとり,自分の民族的な心や文化が脅かされていると感じない,そういう国である。

 40人の手紙は,日付の1週間後に3つの新聞の編集部に送付されたが,ソ連邦内の公式な報道機関からまったく無視された。しかし,エストニア国内では,地下出版 omakirjastus - samizdat の形態で流布し,海外でも,スウェーデンの亡命エストニア人の新聞に掲載され,冷戦時代のアメリカのエストニア語放送で読み上げられるなど,エストニア人の間では周知の文書となった。

 この文書が書かれたのは30年前の1980年と言えば,ゴルバチョフによるいわゆるグラスノスチ (情報公開) に先立つこと5年である。関係者が処分を受けたことは当然だが,考え方にもよるが,処分は意外なほど穏便だったと言えないこともない。

 手紙の文章を起草した人物の1人であるという容疑で,Jaan Kaplinski はKGBによる家宅捜査を受け,署名者のうちの4人が科学アカデミーの研究者のポストなどから解雇されただけだったという。科学アカデミーの職を失ったうちの2人を私は個人的に知っているが,幸い,ふたりとも解雇後,大学の講師などに採用されている。

 署名者40人のうちの28人が Postimees 紙の「現在40人の手紙を書くとすれば,どういう内容になる思うか」とうい質問に答えを寄せている。また,Jaan Kaplinski とは,ジャーナリスト出身のタリン大学教授 Rein Veiudeman レイン・ヴェイテマン氏が紙上対談を行っている。

 記事: Rein Veidemann: pihtimuslikke arutlusi Jaan Kaplinskiga (カプリンスキ・ヴェイテマン対談)
 記事: Mis teemal peaks kirjutama tänapäeval «40 kirja»? (紙上アンケート)

 この40人の手紙は,1980年9月22日と10月1日にエストニアの各地で起こった学生や生徒たちのデモ行動 meeleavaldus と,それに対する警察・検察の対応について,ソ連邦の公式報道機関が,たった数行のエストニアのローカル・ニュースで扱っただけだったことに対する抗議の目的で作成されたものと言われる。確かに40人の手紙の内容と関係者については情報はかなりあるが,それに先立つ若者たちの抗議行動がどんなものだったのかに関する情報はほとんどない。このことをずっと不満に思っているのだが,今のところ,エストニア語の Wikipedia のこのテーマの項目は「執筆者待ち」のままである。

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