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鎌と鎚 (つち) - Sirp ja Vasar

 鎌と鎚 ─ このことばを聞いて直ぐに何のことか分かる人は,40歳を超えている人ではないかと思う。ソ連邦の時代に,農民階級と労働者階級の象徴とされたもので,ソ連邦の国旗の左上にある紋章だ。ロシア語では серп и молот と言う。エストニア語では Sirp ja Vasar, フィンランド語でも Sirppi ja Vasara とロシア語と同じ順番だが,英語は the hammer and sickle 「つちと鎌」,どういうわけか順番が逆だ。試しに,スウェーデン語も辞書で調べてみたら,英語と同じで hammaren och skäran だった。単なる口調の問題かもしれないが,なんだか気になる違いである。ちなみに,エストニア語も,フィンランド語も,三日月のことを「鎌の月」「月の鎌」 (エストニア語 kuusirp, フィンランド語 kuunsirppi) と呼ぶが,鎌の形をみれば,その連想がすぐに理解できる。

Hammer and Sickle

 エストニア語の sirp, フィンランド語の sirppi はともにロシア語の серп と同じ語源に遡る語である。語源を調べたわけではないが,これは,エストニアやフィンランドにロシア経由で鎌が伝わったというような単純な話ではなく,フィンランド湾の周りの地域が共通の文化圏であったことを示すことばの1つと考えるほうが当たっていると思われる。今でこそ,ロシアの中心はモスクワだが,それは20世紀になってからの話で,19世紀までは,ロシアの中心は当時の首都のペテルブルグで,当時のエストニアもフィンランドも,ロシア帝国に組み込まれていただけでなく,ロシアの中心のすぐ近くだった。19世紀になってからロシアに組み込まれていったシベリアよりは,ロシアとの付き合いが古い地域である。

 エストニアがソ連邦に組み込まれて間もない1940年10月5日,Sirp ja Vasar (鎌と鎚) という名前の週刊文芸新聞が創刊された。現在は Sirp (鎌) と呼ばれているこの文芸新聞 が今年創刊70周年を迎えた。ソビエト体制下で名前を替えられて存続し,独立回復後にふたたびもとの名前に戻った新聞の例はあるが (例 Postimees ⇒ Edasi (前へ) ⇒ Postimees), ソビエト時代に発刊されて,今でも昔の名前で刊行され続けているというのは例外中の例外である。

 ソビエト時代,Sirp ja Vasar はエストニア作家同盟 Kirjanike Liit の機関紙として,絶大な人気を誇っていた。もっとも,他に文芸新聞と呼ばれる読み物がまったくなかったのも確かである。ペレストロイカ期にはその名前が嫌われて,1989年,発行日にちなんだ Reede (金曜日) に改名する。しかし,文化人たちが政治参加をするようになって,すっかり政治色の強い評論が主体になってしまったこともあって,独立回復後は売れ行きが激減した。そこで 1991年,かつて文芸新聞として人気のあった時代の名前を連想させる Sirp に改名し,文芸新聞としての復活を計った。その後,1994年に Kultuurileht (文化新聞) と改名するものの再び失敗,1997年には Sirp に名前を戻すという数奇な運命を経て,現在まで続いている文芸週刊新聞である。自由に出版活動ができるようになったという時代の流れもあって,最盛期には9万部近くまであった印刷部数も,最近は5000部足らずに減少し,かつてエストニアの文壇の主役だった頃の面影はない。

 記事: Sirbi seitsekümmend lõikusaastat
 記事: Sirp enne ja nüüd (Marju Lauristin, Peeter Vihalemm)

 新聞サイトでは,現在の編集長の Kaarel Tarand 氏を,タリン大学教授で,文芸評論家の Rein Veidemann 氏がインタビューした記事が載っている。また,ジャーナリズム分析が専門の社会学者 Marju Lauristin 氏が,Sirp 紙の読者層の変遷についての分析を,Peeter Vihalemm 氏と一緖に同紙に寄稿している。

 この新聞に私の名前が載ったことがある。[ 参考 ]

鎌     sirp
鎚     vasar
三日月  kuusirp
文化    kultuur
週刊誌,週刊新聞 nädalaleht
出版物  väljaanne
編集長  peatoimetaja
新聞雑誌 ajakirjandus
読者    lugeja
書籍    raamat
意見,評論 arvamus

Sirp (ja Vasar) 紙の印刷部数の推移
Sirbi (ja Vasara) trükiarvu tabas kiire langus

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