湯沸かしコイル - keeduspiraal
ソフィ・オクサネン Sofi Oksanen の「粛清」 Puhdistus の第1部,Zara がまだウラジオストクにいる時,Zara のところに幼友だちの Oksanka が訪ねてくる。Zara がお茶をだそうと湯を沸かす場面がこう描かれている (39~40ページ)。
ザラはやかんに差し入れ式電熱装置を挿した。
Kattilassa spiraalimaisen vastuksen ympärille alkoi muodostua kuplia. Zara odotti kuumentimen pois vedestä, teepurkin hyllystä, kaatoi veden teelehtien päälle kannuun ja vei kupit pöytään. (p.39-40)
やかんの中でらせん状の抵抗器の周りに泡が立ち始めた。ザラは,電熱器を湯の中から取り出し,茶壷を棚からとって,湯をポットの茶葉の上に注ぎ,紅茶茶わんをテーブルに出した。
感じを出すためにへたくそな逐語訳をしてみたが,フィンランド語で uppokuumennin, spiraalimainen vastus と呼ばれている湯わかし装置は,エストニア語で keeduspriaal ないし単純に spiraal (keedu 沸騰の+spiraal らせん) と呼ばれているものだ。マグカップ用から,大きな鍋用まで,大きさはいろいろある。90年代には,抵抗器の部分を白いセラミック素材で覆って,オーディオカセットケースくらいの大きさ (ただし厚さは2~3ミリ) のカード型のもの[ ここを参照 ] も売られていた。生水が飲めなかった(飲めない?)ロシアでは旅先でとても便利だった。マグカップなら湯は意外とすぐに沸いた。ソビエト時代にはロシアやエストニアで非常によく使われていた湯沸し装置というふうな認識が私にはあるのだが,どうやら今はエストニアでもほとんど見られなくなったらしい。ネット上にこんな質問が出ている。
Kust saaks Tallinnas keeduspiraali? タリンで湯わかしコイルを売っているところがありますか
On keegi näinud viimasel ajal müügil / oskab soovitada, kust võiks leida keeduspiraali, eriti tore, kui oleks vanas vene stiilis pistikuga. Olen läbi küsitlenud elektri- ja kodukaupade poode. Kuskil pole, samas pidi neid küsijaid teisigi olema.
誰か最近,湯わかしコイルが売られているのを見た人,あるいは,どこで売っていそうな店を教えてくれる人はいませんか。古いロシア風の差し込みのあるのが最高。あちこちの家電店,台所用品店で聞いたけれど,どこにもない。探している人は私以外にもいると思う。
私は湯わかしコイルをはじめて見たのがエストニア人の家を訪問したとき (1980年頃) で,名前もエストニア語で教わったし,それまで日本でも,当時住んでいたフィンランドでも見た覚えがなかったので,ソ連の便利な発明品だとばかり思いこんでいたが,そうでもないらしい。英訳本では heating coil となっている。「湯わかしコイル」はこの heating coil にヒントを得た私の勝手な訳である。手元のフィンランド語の辞書で uppokuumennin を引くと immersion heater とある。英和辞典も immersion heater を見出しにしているし,ネットで immersion heater で検索するとたくさんのページがヒットするので,どうやらこれが正式な商品名と考えてよさそうだ。英和辞典には「ロッド式湯わかし電熱器:水に直接浸して加熱する」「投入電熱器 《直接水中に入れて湯を沸かす電熱器》」などと説明されているが,実物を見たことのない人にはどんなものか想像しにくいだろう。
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コメント
バシコルトスタンのビルスクで購入した、台湾製の「湯沸かしコイル」を、まだ使用しています。最近は、海外のホテルでも湯沸かしポットのあるところが増えましたが、ウズベクやカザフ、そうそう、ハンガリーの学会で泊まった大学寮では、非常に役に立ちました。
「湯沸かしコイル」の名前、広めたいと思います。
投稿: papatanaka | 2010/11/16 23:14