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歌う革命 (2) - laulev revolutsioon

 以前,エストニアの歌う革命についてのドキュメント映像が,2つ制作されていて,1つは,1988年9月の合唱祭をほぼそのまま収録したビデオ映像 Eestimaa laul '88 (エストニアの歌 '88) で,もうひとつは,アメリカ合衆国で 2006年 に制作された The Singing Revolution という英語のドキュメンタリー映画だと書いた。

 参考: 歌う革命 - laulev revolutsioon (2010/04/05)

 そのとき,残念ながら前者の映像は一般には見られないとも書いたが,YouTube でほんの少しだが当時の映像が見られることをコメントで教えていただいた。キーワード 'Eestimaa laul 1988' で検索すると,たくさんの映像がヒットするが,そのなかに Eestimaa laul 1988 というタイトルの,エストニアTVの放送の録画らしい2分ほどの映像がある。

 バックに流れるのは歌手 Tõnis Mägi が歌う Eestlane olen ja eestlaseks jään (私はエストニア人) という歌だが,ステージの上で,30代半ばの若いエトカル・サビサール Edgar Savisaar が皆と手をつないで歌う姿も,ほんの数秒間だが写っているので,興味のある方もない方もぜひご覧頂きたい。当時の映像なのであまり画質はよくないが,ネットで見られる映像としては貴重なものだと思う。

 なお,「私はエストニア人」の歌そのものを聞くには,関連映像としてリストされている別の映像,たとえば Ärkamisaeg - Eestlane olen ja Eestlaseks jään のほうがいい。

 当時 Tõnis Mägi が歌った歌の中には,他にも懐かしいものがたくさんある。YouTube にある映像では,Tõnis Mägi - Palve (Live at "Eestimaa Laul" 11-09-88) (祈り), Ühendkoorid - Isamaa ilu hoieldes (X noorte laulupidu 01.07.2007) (祖国の美しさを守るとき) も有名だ。

 「祈り」の方の映像は大部分 1988 年当時のものらしい。

 Looja hoia Maarjamaad ja andesta meile me vead, ...
 主よ,マリヤの国を守りたまえ,そして私たちの罪を赦したまえ

で始まる歌詞は有名だ。謂われは知らないが,マリヤの国とはエストニアのことで,エストニアの大統領から授与される文化勲章は「テラ・マリアナ十字勲章」と呼ばれる。ラテン語 Terra Mariana は,エストニア語で Maarjamaa である。

 「私はエストニア人」の歌詞は,カレビポエクなどのフォークロアからとっていて,メロディーは軽快に聞こえるかもしれないが,詩の内容はかなり過激で,戦闘前の兵士の志気を鼓舞する歌といってもいいくらいだ。

 Isamaa ilu hoieldes, vaenlaste vastu võieldes,...
 祖国の美しさを守るとき,敵に向かって戦うとき

 このほか,合唱曲として Ärkamise aeg (覚醒の時代), Laulu Põhjamaast (北の国), Mu isamaa on minu arm (愛する私の祖国), Sind surmani (死ぬまで祖国を) なども繰り返し歌われた。最初の2つは新しい歌だが,あとの2つは,19世起の女性詩人コイトラ Lydia Koidula の詩で,ソビエト時代の合唱祭でも毎回歌われていた歌である。

Eestlane olen ja Eestlaseks jään, Eestlane olla on uhke ja hää, 1998 ここで話題にした歌を含め,歌の革命当時によく歌われた歌を16曲収録した CD (1998) が,エストニアのオンライン音楽店 Muusika24.ee からダウンロードできる。

 Eestlane olen ja Eestlaseks jään, Eestlane olla on uhke ja hää (9.52 EUR)

このサイトからの曲の買い方については,「エストニアの音楽のダウンロード」 (2010/01/03) の説明を参照。

【更新履歴】 音楽CDに関する情報を付加 (2011/01/06)

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コメント

はじめまして。

YouTube に出ていた「11.09.88」に録画された映像は見ていたのですが、歌っている歌とその歌詞はこの記事を見てやっと理解できました。
映像から見ても歌い手の側はかなり気分が高揚している感じに見えたのですが、歌詞の意味を考えたらその気持ちも理解できそうです。
昨年見に行った laulupidu では歌い手も観客も楽しんでいる雰囲気だったんですが、この当時は革命へと向かう高揚感が周りを包んでいたということでしょうかね。
来年の noorte laulu はまた雰囲気が違うんでしょうか…2014年まで待てないかも。

投稿: TSkhr | 2010/12/19 00:42

今の laulupidu には,歌う革命の当時の緊張感はないと思います。私はもう興味がほとんどないです。その当時のことを想像するには,今の中国を思い浮かべるといいかもしれません。ノーベル平和賞がどんな波紋を引き起こしたかです。

半世紀にわたって歌うことを禁じられていた歌がありました。使うことを禁じられていた色の組み合わせがありました。それを公に歌ったり,使ったりすると,政治犯になりました。その2つを一緖に使った最初の laulupidu がソビエト体制の終りの始まりになったと,まあそんなふうにいうとマスコミ風のナレーションになるかと思います。

よく禁じられた恋は燃える,と言いますよね。ナショナリズムも禁じられているときのほうが強いです。自由に表現できるようになると,貴重さがなくなるでしょうね。でもそうなった今のほうがはるかにいい時代だと思います。

投稿: ブログの主 | 2010/12/19 01:20

そうですねぇ…

昨年の laulupidu は、いかにも「5年に1度のお祭り」という雰囲気で、ここで楽しまないと損だ、という空気が他国人の私にも感じられました。
あの映像当時に舞台で歌い続けた人たちの緊張感と革命に向かう高揚感は、昨年の空気とは全く違うものでしょう。

あれからもう22年にもなることを考えれば、ソ連時代を経験していない人たちも昨年の舞台に立っているんでしょうね。
その当時を知らない人からすればただのお祭りなんでしょう。他国人の私からすればなおさらです。

でもまあ、それがどれだけ貴重なことなのかを知っている人がいて、自由に歌えることを心底から楽しめる「お祭り」もある、ということはとても素晴らしいことだと思います。
(ロシアと陸続きになっている上に国境問題まであることから考えれば緊張感が絶えることは無いかも知れませんが。)

私の場合は言葉を知るほうが先なんですがね(英語-エストニア語辞典を見ても歌詞の訳がさっぱりわかりません)。

投稿: TSkhr | 2010/12/19 12:22

「歌う革命」についてあまり知られていないことですが,1988年秋の時点では,まだエストニア共産党がペレストロイカの手綱を握っていました。合唱祭広場の客席には,当時,ゴルバチョフ派で知られていた Vaino Väljas ヴァイノ・ヴァリヤス エストニア共産党中央委員会議長が夫人同伴で座っていて,合唱祭の司会者から紹介されました。「歌う革命」は,エストニア共産党の公認のイベントで,合唱祭の実行委員会となった人民戦線も「草の根民主主義」の運動として始まったわけではない。そのころのテレビ朝日のニュースステーションなどでの報道は大きな勘違いをしてました。

この時点で,民族のシンボルである三色旗と旧国歌を復活させたことは,当時の共産党指導部にとって「歴史的誤算」となり,馬に手綱を切る勢いを与えてしまったというふうに見ると,1991年夏のゴルバチョフ失脚+ソ連邦崩壊へと急速に向かっていく歴史の大きな流れの一端が見えてくるように思います。ソ連邦の各地で,似たような「誤算」が連鎖反応的に起こったのだと思われます。

ソビエト時代のメーデーや革命記念日のお祭りは官製の行事で,エストニア人はいやいや出ていたわけですが,5年毎の合唱祭は,レーニンとソ連邦を褒め称える歌を最初と最後に歌いさえすれば,あとはエストニア語の歌づくしにできたので,エストニア人も積極的に参加していたイベントです。その合唱祭からソ連臭を一切排除できた1988年の歴史的感動がどんなものだったかは,その場にいなくても容易に想像できると思います。

「歌う革命」の合唱祭は,一種の政治集会であったわけで,「革命」と呼ばれるのはそのためだと思います。でも合唱祭が革命運動の役割を果たすのは異例中の異例で,現在のような純粋なお祭り合唱祭のほうが,本来のあるべき姿なのだろうと思います。

投稿: ブログの主 | 2010/12/19 14:08

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