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エストニアのロマ人 - roma / mustlane

 エストニア語で mustlane と呼ばれてきた人々で,日本では「ジプシー」という呼称が一般的である。EUでの公式の呼び方に合わせて,最近はエストニア語でも「人,男」を意味する自称に基づいた roma (ロマ人)が使われる。

 ヨーロッパでこのところロマ人 (英語 Roma, Romani) が注目されている。フランス政府が国内のロマ人の野営地を撤去し,今年に入ってからだけで合わせて8000人ものロマ人を彼らの出身地である東欧のルーマニアやブルガリアに送還する措置を取ったことの是非が,EU内で激しい論争を巻き起こしているからで,EUの法務大臣 justice commissioner が,第二次大戦中のユダヤ人迫害を引き合いに出したことに対し,フランス大統領が欧州委員会を非難するなどたいへんな雲行きになってきた。EU諸国では,このところトルコ人などのEU外からの移民流入に対する非寛容の態度が強くなってきているが,ロマ人はEU内での人々の移動の問題である。EUが東ヨーロッパに拡大した結果,この地域に多いロマ人たちが移動の自由を得て,西ヨーロッパに大量に流れてきたわけだから,EUの内部での社会問題である。

 エストニアでロマ人が特別の注目を浴びたのは,先週 (9/16),タルトの北の2つの村で起こった強盗殺人事件の容疑者が逮捕され,近くの村に住む58歳のロマ人の男と発表されたからだ。殺害されたのは,83歳と77歳の女性で,犯人は犯行の跡,家に火をつけて逃走し,消火のために現場に呼ばれた消防が,暴行された跡のある遺体を見つけた。その後,犯人が逃走に使ったと見られる自転車が乗り捨てられているのが発見されるなど,マスコミで大きく扱われた。

 容疑者はエストニアのロマ人で,その男の家には最近,ラトビア出身のロマ人だちが複数同居して,窃盗や器物損壊を行って,近隣の住民から恐れられていたという。昨年,マッサージの女性を呼んだ男が法外な料金を請求されたうえ,財布を奪われる事件が同じ村で起こったが,この事件もロマ人たちの犯行と警察は見ているらしい。容疑者の逮捕後,同居人たちは立ち去り,今は容疑者の家には誰も住んでいないという。

 火曜日 (9/21),北エストニア・ロマ人協会 Põhja-Eesti romade ühing の代表 Roman Lutt 氏が,テレビのニュース番組に出演し,「残虐な事件が起きたことについて,ロマ人の団体の代表として遺憾であり,お詫びしたい。ロマ人のコミュニティでは殺人は許されない。容疑者の男とその仲間は,ロマ人のコミュニティを離脱した者たちであるとみなしている。彼らの犯罪をロマ人全体の責任と見なして,子どもたちに冷たい目をむけたり,ロマ人は出ていくようになどとは考えないでほしい。それでは問題の解決にはならないからだ」などと述べた。エストニアTVのサイトには,インタビューの映像がある。

 記事: Romade ühing vabandas vanainimeste mõrvade eest (Postimees)
 記事: Romade ühing vabandas vanainimeste mõrvade eest (ERR)
 記事: Memmemõrtsuka kahtlus lasub mustlasel (2010/09/20)
 記事: Tartumaal tapeti julmalt kaks eakat naist (2010/09/17)

 エストニア語の mustlane は,「黒」「(洗濯物などについて)汚れた」という意味の形容詞 must から作られた単語だが,フィンランド語の mustalainen を借りてきてエストニア語ふうに変えたのではないかと思われる。フィンランド語の mustalainen については,私は勝手に,黒い髪の色のせいかな,と思っていたのだが,皮膚の色に由来する呼称だという説明を昔聞いたことがある。フィンランドのロマ人も自分たちについて kaale (黒い,黒っぽい) を使うことがあるという。フィンランド語では,最近は romani という呼称を使うのが標準的である。

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 英語ではこれまで一般的には Gypsy, ときに Romany という呼び名が使われてきたが,最近は Roma ないしは Romani とするようになっている。 Roma は「人,男」を意味する名詞の複数形で,Romani は形容詞のようだ。参考までに,彼らをどう呼ぶかについては,英語メディアでもまだ大きく揺れている。The New York Times 紙の記事をいくつか見ると,France's crackdown on Roma, integration of the Roma into any European society, unauthorized camps of Roma migrants のように,Roma を名詞としても,形容詞としても使っている。これに対し,The Economist 誌 (2010/09/18-14号)は,形容詞は Romany (古い形), Romani (新しい形)のどちらも名詞として使えるので,新しい方の形を名詞としても使うと宣言し some 8,000 Romani, many Romani children のような書き方をしているが,複数形は the vast majority of Romanies のように,どういうわけか古い方の Romany に対応する綴りを用いている。なお, Romani は言語名としても使われる。個人的には,しばらく前から「ロマ人」「ロマ人の」「ロマニ語」「ロマニ語の」という言い方をすることに決めている。日本語ウィキペディアは見出しを「ロマ」としているが,「サーミ人」「クルド人」等々に合わせて「人」を付けるべきだと思う。

ロマ人   roma
ジプシー  mustlane
殺人,殺害 mõrv
殺人者   mõrvar
拘束する  kinni pidama
容疑をかけられた kahtlustatav
非難する  süüdistama
厳しく批判する hukka mõistama
コミュニティ kogukond
殺す    tapma
被害者   ohver
放火する  süütama
燃える   põlema
遺憾に思う nördinud
心配する  mures olema
まとまって kooris
よそ者の排斥 võõraviha

Kuritöökohad Tartu lähedal

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