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ベストセラー作家 - kirjanik Sofi Oksanen

 エストニアの新聞が Eesti juurtega Soome kirjanik 「エストニア人のルーツをもつフィンランドの作家」という枕詞をつけて話題にする Sofi Oksanen は,日本ではほとんど話題になっていないことが,「ソフィ・オクサネン」で Google 検索してみるとよくわかる。ソフィ・オクサネンは,1977年,フィンランドのユヴァスキュラ Jyväskylä 生まれで,母親がエストニア人,父親はフィンランド人。当然といえば当然だが,作家本人も,エストニアの文学専門家たちも,ソフィ・オクサネンはフィンランド人という位置づけである。

 英語圏では, 小説 Puhdistus (粛清; 2008) の英訳 Purge が今年出て,イギリスの The Times 紙が6月下旬に紹介記事,7月には「次の Stieg Larsson か」という見出しの記事まで出しているが,北米ではそれほど注目度が高くない印象がある。ちなみに,8月1日の The Sunday Times では,次の Stieg Larsson の座を狙っている (?) 探偵小説・犯罪小説部門の作家を4人あげているが,その中に Sofi Oksanen と並んで,『悪人』の吉田修一の名前がある。モントリオール映画祭で注目された映画「悪人」 (Villain) は,わが地元の映画館では,確かこの週末が封切のはずだ。おっと,話題がそれた。参考までに,The Sunday Times はオクサネンについてこう書いている。

Sofi Oksanen is [..] a Finnish-Estonian playwright and novelist whose most recent book, Purge ([..] translated by Lola Rogers), has caused a sensation. The crimes described in the novel are graphic -- the rape of young trafficked women by Russian gangsters is unflinchingly portrayed -- and have their origins deep in the past. Oksanen’s main characters, an elderly Estonian woman and her Russian great-niece, are suffering because of events that took place half a century ago during the Soviet occupation of the Baltic states. Zara is on the run from the Russian sex traffickers, but the only person who can help her is the relative who caused her family’s deportation to the desolate camps of Siberia. It is only at the end of the novel that the enormity of the older woman’s crimes is exposed, along with the extent to which she was herself betrayed by those closest to her. Oksanen’s bold combination of history, politics and suspense has catapulted her to the forefront of the best European crime novelists. (Joan Smith: Who's aiming to be the next Stieg Larsson? - The Sunday Times 2010/08/01)

 北欧評議会の文学賞とフランスの文学賞を今年(2010)受賞して,国際的にもたいへんな評判のソフィ・オクサネンの小説 Puhdistus (2008) のエストニア語訳 Puhastus は昨年 (2009)出ている。エストニアのオンライン書店 Apollo のサイトでは,この作品をこう紹介している。

“Puhastus” on Eesti juurtega Soome kirjaniku Sofi Oksaneni kolmas romaan. Maineka Finlandia kirjanduspreemia pälvinud raamat kinnitab pilgu Eesti lähiajaloole, ühe rahvakillu ja üksikisikute valikutele või valikute puudumisele repressiivses ühiskonnas. Samuti on see lugu vaimsest ja füüsilisest vägivallast, ühtaegu nii nõrkadest kui vapratest naistest meeste agressiivses maailmas. See on lugu olevikku kummitavast minevikust, lugu kadedusest, kättemaksust ja lunastusest. Psühholoogiliselt kihiline, sotsiaalselt tundlik, süžeeliselt hoogne, põhjamaiselt poeetiline. Kõrvalpilk meie rahvuslikule traagikale ajaloo alasi ja haamri vahel.

 『粛清』は,エストニア人のルーツをもつフィンランドの作家 (Eesti juurtega Soome kirjanik) ソフィ・オクサネンの3番目の小説である。有名なフィンランディア文学賞を受賞したこの本は,エストニアの近過去の歴史,すなわち,抑圧的な社会において,ある社会階層が,また個人たちがどういう選択をしたか,あるいは選択できなかったかに目を向けている。また,この物語は,精神的かつ肉体的な暴力について,すなわち,男中心の暴力的な世界にいる,か弱いが果敢な女性たちについて語っている。この小説は,現在に亡霊となって現れる過去についての物語であり,羨望,復讐,贖罪についての物語である。階層化された心理描写,繊細な社会性,躍動的な構想,北欧風の詩のような趣。金槌とかなとこの間で翻弄されたエストニアの悲劇の歴史に対する,傍らから投げかけられた一瞥である。

 オクサネンの小説 Puhdistus は,2007年4月にヘルシンキのフィンランド国立劇場 Kansallisteatteri で初演された同名の戯曲をもとに書かれたものという。この舞台は,同年10月にタリンの Draamateater で上演された。

 記事: Ühe rahva vägistamise lugu (Postimees 2007/10/16)

 小説「粛清」の簡単な内容紹介は,ここにある。

 関連ページ: 読書案内:ソフィ・オクサネン「粛清」 - Sofi Oksanen: Puhdistus

 「粛清」の書評が The Times 紙に載っていてネットで読むことができる。ただし,有料である。

 Joan Smith. "Sofi Oksanen lifts the lid on Soviet Imperialism." - The Times 2010/07/26.

 日本の「図書新聞」にあたるエストニアの季刊誌 Lugu の 2010年秋号の表紙は Sofi Oksanen が飾っていて,インタビュー記事も載っている。このほか言語文学研究の専門誌 Keel ja Kirjandus 2010年7月号には,ソフィ・オクサネン論が掲載された。

 Sofi Oksanen: "Mis kirjas, see kirjas." - Lugu nr 4. Sügis 2010, 8-9.
 Sirje Olesk: Eesti teema Soome kirjanduses: Sofi Oksaneni romaan "Puhastus". - Keel ja Kirjandus 7/2010, 473-486.
 参考: エストニアのベストセラー (2010/01/19)

【補足】 少し情報を加筆 (2010/12/14)

Sofi Oksanen の穏やかな顔をした写真は珍しい気がする。
背景は手前にエストニア劇場,奥がタリンの旧市街。
Sofi Oksanen

Tea Ista 演じる Aliide
Mineviku painete küüsis: Aliide Truu (Tea Ista).

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コメント

金槌とかなとこの間で翻弄された、というのがユニークな表現ですね。

投稿: papatanaka | 2010/12/19 12:42

> 金槌とかなとこの間で翻弄されたエストニアの悲劇の歴史

学校の英語の試験では,先生から大幅な減点を食らうかもしれない日本語訳です。ユニークな表現なのは,原文のせいというより,私の日本語の表現力の貧しさのせいだろうと思います。

引用部分の最後の文を英語に直訳すると,こんなふうになります。

A side-glance at our national tragedy between history's anvil and hammer.

「歴史のかなとこと金槌の間で起こった,われらの民族的悲劇」のようにしたのでは,ぴんと来ないのではないかと思いました。

投稿: ブログの主 | 2010/12/19 13:07

いえいえ、とんでもありません。

私自身が不勉強で知らなかったのですが、「金槌とかなとこ」というのは、よく用いられるたとえではないかと思ったので調べてみると、なんと挟撃する作戦のことを、hammer and anvilというのだと知りました。(ウィキペディア>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84%E5%BA%8A%E6%88%A6%E8%A1%93

私は鎌と鎚のあの国にひっかけて、こういう表現が使われていたのだと思っていましたが、そのあたりはどうなんでしょうか?

投稿: papatanaka | 2010/12/23 23:26

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