バスに乗せない - bussist maha jätma
新学期の授業が始まった木曜日 (9/2) の朝,サーレマー Saaremaa のクレサーレ Kuressaare では,学校に通う生徒は通学目的ならバスを無料で利用出来ることになっているにもかかわらず,バスの運転手が,しかるべきIC証明カードを持っていないという理由で,2人の生徒の乗車を拒否するということがあったらしい。これを地元の新聞 Saarte Hääl が大きく報道し,その記事を全国紙の Postimees が転載した。
記事: Bussijuht keeldus tasuta sõidu tõendita õpilasi kooli viimast (Saarte Hääl)
記事: Bussijuht keeldus tasuta sõidu tõendita õpilasi kooli viimast (Postimees)
興味深いのは,地元の新聞のサイトに寄せられたコメントの中には,運転手の判断に一定の理解を示すものがあるのに対し,全国紙の読者のコメントには,運転手を子どもの虐待のかどで告訴すべきだという意見までコメント欄に投稿されて,運転手に対する批判的な意見が多いことだ。
問題を整理しよう。バスの運転手は,就業規則にきちんと従い,不正乗車を防ぐ義務を忠実に実行しただけだ,どこも悪くないではないか,という理屈は問題なく成り立つと思う。他方,新学期の初めに間に合うように生徒にIC証明カードを配布しなかった学校側に問題がある,学校側は,バス会社に事情を説明し,柔軟に対応するよう運転手に徹底してくれと申し入れたはずだとも言っているが,その子どもたちは,校長以下の教員たちの不手際のために迷惑を被った被害者だという理屈もまた成り立ちそうだ。
何も悪くないはずの運転手に対して非難の声があがるのは,たとえしかるべき証明書を保持していないとしても,朝の通学時間帯にそのバスの路線上の学校まで乗っていきたいという子どもが,不正乗車を行なおうとしていると考えるのは,人間としてどんなものだろう,という疑問がどうしても残るためである。小さな子どもが学校に行こうとしていたのだから,証明書を忘れたことを多めに見て乗せてあげる思いやりが運転手にはなかったのか,バスに乗れないで取り残された2人の子どもがかわいそうではないか,そういうふうにも考えられるところが,賛否両論の議論を巻き起こしている理由だろう。加えて,2人が児童養護施設の子どもだということが,運転手は子どもにひどいことをしたと,感情的に考える読者が多い理由のひとつになっている可能性もある。
他方,子どもたちは現金を支払って切符を買えば乗れたわけだから,バスの乗客の誰かが,運転手に進言するとか,かわりに切符を買ってあげるとかすることもできたのではないだろうか,バスに乗っていた大人たちは,みな何も言わずに黙ってみていたのだろうか,もしそうだとしたらそれも冷たいではないか,という疑問も残る。当事者の誰かが絶対的に悪いというわけではないが,子どもが傷つくような結末になったように思われるから,残念な出来事だったと思う。
参考: 通学バス - koolibussid (2010/08/29)
väikelastekodu という施設名が耳慣れないので調べてみたところ,辞書には「親の保護を受けられなくなった子どもたちの養育施設」(vanemate hooleta jäänud väikelaste kasvatusasutus) とあって,日本の児童養護施設にあたる施設と思われるので,そう訳してみた。ネットでエストニアのこの名前の施設のホームページをいくつか調べてみると,障害をもった子どものための施設も併設されているようで,その点が,日本の養護施設とは少し違うようである。
バス運転手 bussijuht
拒否する keelduma
無料乗車 tasuta sõit
証明書 tõend
通学日 koolipäev
児童養護施設 väikelastekodu
生徒証 õpilaspilet
車に乗せる sõidutama
ICカード kiipkaart
遺憾だ kahju olema
バス会社 bussifirma
バスに乗せないで置き去りにする bussist maha jätma
【更新履歴】 リンクが切れていたので修正 (2011/01/15)
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