大学 (2) - ülikool
エストニアの名門タルト大学で,先頃,ある学位論文の最終審査が問題になった。学位論文と言っても,学士論文,つまりいわゆる卒業論文なのだが,エストニア学士論文は,現在の日本の大学の卒業論文ではなく,1970年代くらいまでの卒業論文の位置づけを思い起こすと事情がわかりやすい。また,最終審査が公開で行われる点も日本とは違う。
日本的な考え方では学位論文は審査されるものだが,英語では学位論文は defend するものである。この defend という概念に対応する日本語の動詞はないのでうまく訳せないが,学位論文の最終審査において,審査委員から投げかけられる様々な質問や批判に対し,ひとつひとつ答え,論駁して,論文の著者が,自分の論文の研究方法,推論,結論の正当性を最終的に証明することを指している。エストニア語では,「守る,防衛する」という意味の動詞 kaitsma が学位論文の審査に関しても用いられる。
「イデオロギー的世論操作─キリスト教と共産主義の比較」と題して,社会・教育学部 社会学・社会政策学科に提出され合格した学士論文に関して,内容があまりにも酷いという疑義が出され,Postimees 紙のオンライン・サイトでも議論になった。たとえば,宗教改革で知られる Martin Luther (1483-1546) ─日本では「ルター」─と合衆国の黒人の公民権運動で指導的な役割を果たした Martin Luther King (1929-1968) ─日本では「キング牧師」─のふたりを混同して議論しているというような,きわめて基本的なレベルでの問題が多々あったというのである。
学位論文の最終審査が開かれることが公示されると,学位を授与されることに決まった人がいるのだというふうに受けとめるのがふつうである。したがって,最終審査の段階で不合格になるのは,非常に不名誉なこととなるわけで,原則としてそれはないという暗黙の了解がある。ただ,タルト大学では,学士論文は,指導教員が最終審査を行うという決定を下せば,そのまま最終審査が開かれというシステムになっているらしい。
7日(月曜日)の Postmees 紙 (オンライン版) によると,タルト大学の教務担当副学長 Birute Klaas 教授が,大学側の公式見解を発表した。「学位論文の最終審査の結果を不服とする場合,論文提出者は,審査結果が発表されてから2日以内に申し出なければならないという規則がある。今回の場合,論文提出者がこの申し立てを期限内に行っていない。したがって,審査結果はすでに確定しており,それを覆すことはできない」
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余談だが,Birute Klaas さんはリトアニア人で,エストニア語学が専攻の言語学者だが,最近はすっかり学内行政が専門になっている感がある。リトアニア人といえば,タリン大学のラウト学長 Rein Raud の夫人も,偶然だがリトアニア人である。
タルト大学 Tartu Ülikool
学士論文 bakalaureusetöö
defend する kaitsma
成績,評価 hinne
副学長 prorektor
教務副学長 õppeprorektor
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