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困り果てる - hätta jääma

 東北エストニアのロシア国境の町ナルヴァ Narva は,ロシア語系住民がほとんどの町として有名だ。しかし,ソ連に併合される以前の1930年代までは,今とは正反対のエストニア人の町だった。第二次大戦中に,町の住民はそっくり疎開させられ,ほとんど誰もいなくなった町はソビエト軍から空爆を受けた。ナルヴァの旧市街は戦後しばらくは瓦礫の姿のままにおかれたが,1950年代になって旧市街の復元は断念され,かわりに高層アパート群を建築することに決まった。ナルヴァの旧市民が疎開先から町に戻ることは許可されず,代わりにソ連邦各地からの移動労働者たちがアパートに入居した。これが,現在のような人口構成になった歴史的背景である。ただし,市庁舎だけは例外的に復元され,13世紀にデンマーク人によって作られた城塞も戦争による被害を奇跡的に免れている。

 ほとんどの住民がロシア語系である現在のナルヴァについて,エストニア人の間では,ナルヴァでエストニア語を話すと殴られる,というまことしやかな噂がささやかれる。

 1月の初めころ,モスクワから来たロシア人観光客の「タリン初めて」さんを,女性記者が演じてロシア語がどのくらい通じるのかを試したという記事を紹介した。こんどは,,ナルヴァをエストニア語だけで歩き回ってみた男性記者のレポートが掲載された。

 記事: Narvas saab eesti keelega hädapärast hakkama
 参考: 惚れる - armuma

 ナルヴァに到着して,最初に道で出会った女性に,エストニア語で「バスターミナルはどこですか」と聞くと,ロシア語で「エストニア語はまったくわからないからロシア語で話してほしい」と答えるばかり。あきらめる。

 次にやってきた2人の女性は「バス」 buss ということばを理解したようで,ロシア語で説明してくれる。私が何もわからないという顔を続けると,手でバスターミナルの方向を指し示してくれた。そのあと,女性の1人は「まっすぐ行って左。500メートルくらいね」とエストニア語で教えてくれ,もうひとりも「5分よ」とエストニア語で付け加えた。

 途中,2つのキオスクのおばさんに道を確かめると,一生懸命エストニア語の単語を使って答えてくれた。

 バスターミナルの案内カウンターに行くと,女性が Пожалуйста. (どうぞ) と出迎えてくれる。エストニア語で「次のパルヌ行きのバスの時間が知りたい」というと,くせのあるエストニア語だったが「13時45分。切符は運転手から買ってね」という答え。申し分なし,合格。

 もちろんパルヌ行きに乗るわけではない。通りすがりの老人に「郵便局はどこですか」と聞くと,ロシア語で「郵便局はあそこだ」という答え。私の言うことはわかるらしい。私が理解できなくて困った風をすると,道順を細かくロシア語で教えてくれる。でも,もしロシア語のできないエストニア人だったら,困り切ってしまったところかも。

 小さな男の子を連れた若い母親も親切だった。ロシア語の説明ではわかってもらえないとわかると,指で方向を示しながら,一生懸命「3分,3分」と教えてくれた。

 郵便局では,切手と封筒を買うことにする。カウンターの女性は,エストニア語で必死に説明してくれた。この封筒は切手を貼る必要がないのだ。他の人たちも,一様に親切でちゃんとしたエストニア語で応対してくれた。

 ところが,写真のついた身分証を見せて名乗り,みなさんはナルヴァでどのくらいエストニア語を実際に使うことがあるのか,聞いたとたん,その場の雰囲気は凍り付いた。ジャーナリストだとわかって,態度が急に変わったのだ。

 ドイツ語で Nicht verstehen (おっしゃっていることが理解できません) と初老の男が答えた。「私はエストニア語は一言も話せないし,その必要もない。エストニア人はナルヴァの人口の3%。エストニア語で話すべき人はいないし,エストニア語を学ぶ機会もない」

 ナルヴァでエストニア語だけで何かしようとすると不自由はあるが,深刻な問題は起きない。エストニア語を話したからと言って,襲撃されたわけでもないから,警察官や病院の職員のエストニア語の運用能力については確かめられなかった。ナルヴァを離れるとき,町外れのガソリンスタンドの店員が,エストニア語とロシア語を混ぜながら,おいしいパンだよと進めてくれ,最後にきちんとしたエストニア語で「気をつけて帰りなさいよ」と帰りの無事を祈ってくれた。

語彙
 vanalinn      旧市街
 taastama     復元する,復興する
 korrusmaja    高層アパート
 narvakas     ナルヴァ市民
 ehitama      建築する,建てる
 linnus       城塞
 häda        困った状態
 hätta jääma    困りはてる,窮地に陥る
 suhtlema     コミュニケーションする,付き合う
 vene keel     ロシア語
 eesti keel    エストニア語
 riigikeel      国語
 müüt       神話
 peksa saama   殴られる,蹴りつけられる
 buss       バス
 bussijaam     バスターミナル
 pärima, küsima 訊く,質問する
 seletama, selgitama 説明する
 umbkeelne    母語しかできない,モノリンガルの
 abivalmis    親切な
 sõbralik     友好的な
 rääkima     話す
 keeleoskus   言語の知識,言語運用能力

ナルヴァのロシア人は本当は親切だ
Eesti keelt kuuldes on narvakad küll veidi üllatunud, kuid püüavad riigikeelt mõista ja üritavad ka vastata.

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