夫人 - abikaasa
写真は,今年のエストニアの独立記念日の大統領主催レセプションで顔を合わせたイルベス大統領夫妻(右)とアンシプ首相夫妻 (新聞サイトの画像ファイルに直接リンクしてここに表示)。
どちらの夫婦も男の方が要職についているので「夫人」と訳してみたが,エストニア語の abikaasa は「配偶者」の意味で,男女の区別はない。日本語でも大昔は「つま」は夫の意味でも使われたらしいが,現代語にはぴったりする訳語がない。「配偶者」は法律用語で日常的な文脈では使えないし,「連れ合い」は写真のような場面にはそぐわない。エストニア語の abikaasa はふつうの語で,法律的な文脈でも,日常的な会話でも使うことができる。
写真の場面では peaminister Andrus Ansip abikaasa Anu Ansipiga 「アントルス・アンシプ首相とアヌ・アンシプ夫人」といい,もし女性の方が主役の集まりだったら,順番を入れ替えて naistearst Anu Ansip abikaasa Andrus Ansipiga と言えばいいことになる。しかし,日本語にはどう訳せばいいのだろうか。「婦人科医のアヌ・アンシプさんと夫のアントルス・アンシプさん」かな。新聞はどうしているのだろう? ちなみに,フィンランドの大統領は女性だが,来日したときには夫婦同伴ではなかったから,記者たちが頭を悩まさずに済んだのかも知れない。
ただし,president Toomas Hendrik Ilves ja proua Evelin Ilves 「トーマス・H・イルベス大統領とエベリン・イルベス夫人」のように,夫人のほうに proua (英語の Mrs に相当) を使う場合には,対応する女性中心の言い方がない。
語彙:
abielu 婚姻関係,結婚生活 cf. abi 助け + elu 生活,人生
abikaasa 配偶者 cf. kaasa 一緒に (後置詞,副詞)
pulmad 結婚式
abielluma 結婚する
härra 紳士,旦那さん
proua 奥さん
härra と proua は,商店主が客を呼ぶときの「旦那さん,奥さん」によく似た語である。 「härra / proua + 苗字」は,英語の Mr / Mrs にあたる呼びかけとしても使う。参考までに,郵便物の宛名の場合,通常,受取人の名前は呼び捨てにする (例えば,友人同士や顧客に対して)。
abikaasa は大昔からある語ではなくて,20世紀の後半に広く使われるようになった語であろう。より伝統的な言い方をすれば,夫は mees 「男」,妻は naine 「女」である。動詞 abielluma も名詞 abielu から作られた比較的新しい動詞で,かつては,男が結婚するのを naise võtma 「妻をめとる」,女性が結婚するのを mehele minema 「夫のもとへ行く」と言ったが,この2つの表現は,日本語の「嫁をもらう」「嫁に行く」と同じく,現代では古めかしく聞こえる。
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