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政党を意味するエストニア語 - erakond, partei

 エストニア語大辞典 Eesti keele seletav sõnaraamat (2009) がエストニアから届きました。6巻本の大辞典で,エストニア語詳解辞典 (Eesti kirjakeele seletussõnaraamat, 1988 – 2007) の改訂版で す。

 旧版が完結する前からすでに改訂版の準備が着々と進んでいたことはよく知られていました。公式の政治イデオロギーが廃棄され,社会の仕組みが大きく急激に変わったことを反映して,とくに政治や社会に関する語彙の意味の定義を大きく変える必要が生じていました。旧版の完結 (2007年12月) から2年もたたないうちに新版が出たのはそのためです。

 例えば政党,党派を意味する単語は,エストニア語本来の erakond とドイツ語から借用された partei の2つがあります。ソ連邦に併合されるまで(~1930年代)は,この2つの単語はほぼ同義語として使われていたようです。日本語で言えば,漢字語 (たとえば,電子計算機) とカタカナ外来語 (コンピュータ) の関係と似ています。

 ソビエト時代 (1940年代~1980年代) には,partei が「政党」,erakond が「党派」というふうに定義が変わり,使い分けられました。とくに,何も修飾語をつけずにただ partei というとソ連共産党をさしました。旧版のエストニア語詳解辞典は,erakond を「政党」の意味で使うのは「歴史的な用法」としています。

 1990年代の初めにソビエト体制が崩壊したとたん,2つの単語の関係が180度変わりました。まず,「共産党」との連想が強い partei が全面的に嫌われて避けられ,erakond が「政党」の意味で復活します。面白いことに,partei と「共産党」との強い連想関係は,共産党という政治組織が消滅すると,数年で消えてしまったようです。現在では,2つの語は同義語として,1930年当時とよく似た関係に戻っています。

 新版のエストニア語大辞典では,erakond を partei の同義語としているだけでなく,その「党派」の意味での用法を「歴史的な用法」としています。他方,partei の項を見ると,同義語として erakond が加わり,「ソビエト時代の用法」として「共産党,通常,ソ連共産党」という定義が加わりました。「partei=共産党」は,私もかつて慣れ親しんだ (?) 用法だけに,歴史が大きく動いたんだな,という感慨が深いですが,政治体制の変化と共に,これほど大きく意味が入れ替わった類義語の例は,エストニア語はもちろん,他の言語でもあまり例はないのではないでしょうか。

 参考までに,「ソビエト時代の用法」というカテゴリーは,新版で新たに設けられたものではなくて,すでにオンライン版に登場していたことに今頃気付きました。erakond と partei の語義の説明に関する限り,オンライン版は新版とまったく同じです。オンライン版には,旧版と同じままの部分もあるようですが,細かいことなので触れないでおきます。

【補足】 本文を少し修正加筆,タイトルを変更。 (2010/10/28)

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